都内の高級住宅街にある中規模の病院に取材に行った時のことだ。
副院長への取材だったのだが、話のついでにと病院内を撮影できることになった。カルテ室、研究室、ナース休憩室など滅多に行けない内部へ入り込むことができ、取材する立場からするとラッキーだった。
しかし、まさか手術室にまで入れてもらえるとは思わなかった。
ましてや「今、ちょうど手術中だから、その写真撮ってみる?」と、先方から言われた時には我が耳を疑った。こちらとしては願ったり叶ったりだが、そんな手術の最中に一般人の自分が入り込んでも本当にいいのか躊躇したほどだ。しかし、せっかくのチャンスなので撮影させてもらうことにした。
入室するのに、手術着を着て、消毒をしなければならないのかと思ったが、ただマスクを渡されただけだった。意外だった。
手術室では二人の若い医師が子供を執刀している最中だった。助手となる看護師はいない。テレビで見る感じとは何か違う。彼らはチラッと私の方を見たが、特に気にするようなことはなく、何かしら話し込みながら手を動かしている。真剣な手術の邪魔をしてはいけないと思い、こちらとしては離れたところで遠慮しながらカメラのシャッターを押していた。
だが、彼らの話の内容を聞いてみると、どうも手術とは関係ないことばかりだった。昨夜見たテレビの話や合コンした女のコの話ばかりをしているのだ。エッチな話もしているのか時折「イヒヒヒ」といったイヤらしい笑い声も漏らしている。
手術とは緊迫した雰囲気の中で行われるものだと思っていただけに驚いた。まさか談笑しながらやっているとは…ショックな光景だった。簡単な手術とはいえ、受ける患者は真剣で緊張しているだろうに…。
しかし、もっとショックだったのは、一人が「あ、やべっ」といい、もう一人が 「おいおい」と言いながら小さく笑っていたことだった。何かミスを犯したのだ。こわっ…。
冗談じゃない。こんな医師から手術を受けたくはない。
[編集後記]
医療ミスは人ごとではない。その後、医療関係の仕事に関わるようになり、その手の報道記事を多く目にするようになった。そして、医療ミスに泣かされてきた人が多数おり、そのほとんどが泣き寝入りだという現実を知った。だから、あの時に見た「手術室の風景」を思い出すたびに確信する。ミスが起きても不思議ではないと。真面目に取り組んでる他の多くの医師のためにも、オペは真剣にやってもらいたいものだ。