認知症と演劇アプローチの、「今、ここを共に楽しむ」 2019年11月12日発信
取材から帰ると、妻(グルメレポーター)から、いつも「どう、何か拾い物があった?」と聞かれる。
たいがいは「うん、まあね」と答える。こんな時は書いてみないと自分でもあったかどうだか、まだ決められない心境。
むろん即座に「う~ん、記事にならん」と言うこともタマ~にある。
今日はというと「ウッ、かなりね・・・」とそれ以上、語らない。 その後を話してしまうと持ち帰った拾い物が減ってしまいそうだから。
今朝、建部上にある「老人センター」で催された『ようこそ!人生の下り坂へ』と題する講演会、講師として来られたのは「老いと演劇」OiBokkeShi(オイボケッシ)主宰、菅原 直樹さん。
菅原さんは栃木県宇都宮市出身で、2012年に東日本大震災を機に岡山に移住。以来、役者で且つ介護福祉士の仕事をされながら、認知症ケアに演劇的手法を用いた「老いと演劇のワークショップ」を全国各地で展開。このたびは、建部で活動する「カナリアの会」「ボランティアたけべの会」の合同研修会の一環で招かれた。
さて玄関を入ると、いい~香り「サニーデイコーヒー」さんがお出迎え(さすが!)。会場ではいつもながらに女性優勢50名+男性5名ほど。
オニビジョンさんも久しぶりに松本記者の顔、職場体験中の岡山大安寺中等教育学校の女子生徒さん2名を伴いやって来た。
さっそく菅原さんのワークショップ1、「アソビリテーション」
(菅原)「遊びって、できないことをするから楽しいですよね、でも、年とるとだんだんできなくなって、できない自分を責めるんです。
そうじゃなくて、できないことを楽しもう、そんなゲームです」
参加者半分が中央に輪を作り並び、体の頭から足先まで(頭1、鼻2、肩3、腹4、膝5、足先6)番号を付ける。 それを号令役が好き勝手な番号を言い、そのたびに全員、自分の部分を指さす。これは楽勝。次に、いっぺんに番号を2つ呼ぶ。右手は正解、でも左手で指したのは別の部分?かなり、できなくなる。
さらに指さすのは別の人の体、ますます混乱。終いのルールは毎回、同じ人ではない人を指す。もう、何が何だか、頭グチャグチャ。
続いて残り半分は「イス取りオニ」。
空いたイスが1脚、そこへ老人(菅原さん)が座ろうとヨタヨタ近づく。そうはさせない(かなり意地悪)と、そこへ一人が移動。今度はその空いた席に老人が、それもさせずと別の人。しかし、とかく気づくのは近くの席の人、なので老人は難なくその隣の席に座れてしまう。
途中で「シャッフル!」が掛かり、同じ席に座れないルールが発動、これで会場は老人を阻止するのか、自分の席を見つけるのか、カオス状態の大笑い。
(菅原)「体を使った遊びは、何も子どもの特権ではないんです、大人がやっても楽しい。演劇も体を使った遊びで他者とのコミュニケーションなんです」
ワークショップ2「イエス・アンド・ゲーム」 認知症の人との介護の現場で演技者になって接っしてみる体験。
(菅原)「たとえば”〇〇さん、お食事ですよ”と介護者が声を掛け、患者さんが”旅行に行きたい”とまったく違う返事が返る。
そこで”〇〇さん旅行じゃなくて、ご飯ですよ”と相手の言動を正すのでなく、肯定(イエス)で”そう、じゃあ、車を用意しなくちゃね”とさらに(アンド)提案する。相手の感情に寄り添う関り方で演技者になる事が大切だと思います」
では7人チームで輪になって、順番に介護士さんと認知症の方になって実演。
(介護役)「XXさん、食事ですよ」
(患者役)「プールに入りたい」
(介護役)「ステキな水着、着ましょうね」
これは、スムースにいきました。
(介護)「△△さん、お風呂でっすよ」
(患者)「お風呂はいやじゃ」
(介護)「いや?こまったなあ・・・」
認知症のずれた返事ができなくて、ついまともに答えてしまう(大笑い)。
今度は反対バージョンを菅原さんと演技。
(介護役、菅原さん)「〇〇さん、ご飯ですよ」
(患者役)「皇后さまになりたいなあ」
(介護)「そんな、今から皇后さまになんか、なれるわけないじゃないですか」
(患者)「なりたい、なりたい、手を振ってスマイルしたい!」
困った菅原さん、先輩介護士を呼びに行く。
(先輩)「〇〇さん、そうねえ、皇后さまステキよねえ・・・」
安心してうなずく患者役(観ていた参加者も演技力に大絶賛)。
(菅原さん)「一方的に自分の価値観を相手に押し付けても人は変わらない、話を聞いてくれることで信頼が生まれると思います。 何故そこまでして受入れなくてはならないのかと言うと、今の世の中は進歩主義が現実、でも老人ホームに入るとそんなの妄想に過ぎないとわかる。 だからこそ、今、この瞬間を楽しませてあげなくては・・・」
ワークショップの後、菅原さんと演劇を共にする岡田忠雄さんのドキュメンタリー『演じて看る』が上映された。
岡田さんは91歳で同じ年の認知症の妻を10年間、介護している。その日常は演技の連続。
寒い日、いきなり家に帰ると言い外へ出ようとする妻、だって、ここが家だよって言っても聞かない。そこで、じゃあタクシーが来るまで待ってよう、お母さんもいっしょに迎えに来るからねと、なだめて部屋に戻る。カレーを作る岡田さん、もう食べたという妻。そう、と言って自分で食べる岡田さん。(場面を前に、涙を拭う参加者たち)
中に出てきた菅原さんの劇に岡田さんが演じる役のなり切り様も凄い。老々の重い介護を抱えているとは到底、見えない。 それはまさに「今、ここを共に楽しむ」姿、 だからこそ妻に寄り添い、受入れる自分があるのだと心から思った。
「老いと演劇」OiBokkeShi公演ご案内(PDFで)
(取材・写真 三宅優)