昔、昔あるところにお爺さんと俺がいました。
お爺さんは、繁華街へエアマックス狩りに。
俺は、川へ洗濯に。
すると、川の上流から・・・
天ぷら粉~
天ぷら粉~
と、上質の小麦粉で揚げられた、海老の天ぷらが流れて来ました。
「おやおや、こりゃ美味しそうな天ぷらだよぉ。持って帰ってジジイに天丼でも食べさせてあげようかしら。。。」
俺は、そう言うと川から海老の天ぷらを拾い上げようと手を伸ばした。
よいしょ・・・
・・・・・!?
ぐ・・・っつは・・
くっつっく・・はっ・・
びょ・・・よん・・
びょびょ・・
ビヨンセぁ!!!!!!!!!!!!!
河原の石に生えたコケに足を滑らせ、気が付きゃ水の中。
ち・・・
ち・・くしょう・・・
服が川の水を含んで重くなっちまって、身動きがとれねぇ・・・
もがけば、もがくほど体は沈み、水がどんどん口の中へと入ってくる。
く・・そ・・っ
俺はここで終わりか・・・?
終わりなんか・・・??
クソジジイめ・・・
おめぇの好きな食べ物が天丼じゃなけりゃ、俺は流れ来る海老の天ぷらを拾おうとはしなかったのによ・・・
う・・恨むぜ・・・
薄れゆく意識。。。
これが走馬灯ってやつか。
頭の中がまるでスクリーンのように、俺の人生を断片的に映し出す。
未熟児で生まれた俺・・・
保育器の中で育てられたっけ。
透明な箱ん中で、親の温もりが恋しくて大泣きしてたあの頃。
泣きじゃくる俺の横には白衣の天使がいつもいてくれた。
その天使が俺の初恋の女性だった。
俺は0歳児ながらに、マセた言葉を言った記憶がある。
「なぁ、ネェちゃん。俺と一緒に束縛された世界から抜け出そうぜ?俺が君の羽になってやるよ。」
ってさ。
俺がそう言うと、天使は俺の肩に頭を寄せ、黙って俺に唇を重ねた。
それが俺のファーストキス。
今、なにしてんだろうなぁ。。。
幸せになってくれてたらいいな。
心から、そう思う。
・・・!?
しまった!!
そんなこと考えている場合ではない!
何とかして岸に上がらなければ!!!!
最後の力を振り絞り、もがいてもがいて、もがきまくる俺。
これこそまさしく、藁にもすがるってヤツだ。
た・・・助けてくれぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!
もう、声にもならない声で叫んだ。
奇跡。
奇跡中の奇跡、奇跡の王様:キセキングが俺に降臨した。。。
俺の右手を強く圧迫する力を感じた。
俺はとっさに、握り返す。
俺はその力を頼りに、水面から顔を出した。
眩しい太陽。
美味しい空気。
生きてるって感じ。。。
俺は右手の方へと目をやった。
俺の手を圧迫する力の主は、しわが深く刻まれた、シミだらけのよぼよぼの手であった。
なんとも弱々しい手であったが、俺にとっては誰よりも力強い手に感じた。
「大丈夫かい?」
・・・!?
この声は!?
声の主を見上げた。。。
「ジジイっ!!!!!!」
なんと、そこには街へ出かけていたはずのお爺さんの姿があった。
「な・・・何してんだよジジイ!?街にエアマックス狩りに行ってたんじゃねぇのかよ!?」
息絶え絶えながらに問う、俺。
「ほっほっほっ、エアマックスを狩りに行ったのは良いが、ワシももうこの年じゃ。。。若者からエアマックスを狩るだけの力はもう残ってないわい。おがげで腕一本、折られてしまって一足も狩れずに家路に付くとこじゃったんだよ。全くもって情けない話じゃろ??」
ジジイ・・・
「ははは♪ジジイらしいぜ!身の程を知れよ!!!もう若くないんだからよ!!!!」
「ほっほっほ、よく言うわい!!!」
今までの緊迫した状況が、嘘のように和んでいた。
ジジイの手を強く握った右手。
そして左手には・・・
海老の天ぷら。。。
ジジイの為の海老の天ぷら。
俺は、離さなかった。
危うく溺れ死ぬっていう状況でも離さなかった海老の天ぷら。
必死に握り締めてたから、衣も剥がれちまって、天ぷらの姿はこれっぽっちも残っていなかったけどさ。
「ほれ、海老の天ぷらだぜ?今夜はこれで特上の天丼でも食べようや!!!!」
俺は、春風のような爽やかな笑顔でジジイに海老の天ぷらを渡した。
「いあぁいやぁ、今日の昼は街で天丼を食べてきたから、いらんよ。しかもそれ、ボロボロでマズそうだしな。。。」
クソジジイ・・・
おしまい。。。