先日のツイッターで書いた呟きに結構な反響をいただいたので、もう少し詳しく書いておきたいと思います。


呟きその1.「いまだに「封切りですよ(ラッキーですね)~♪」という飲食店さんが多いので一言。封切りの良さは「フレッシュさ」数日後の良さは「その酒本来の旨さ」終盤の良さは「熟したウマウマ感」という事を理解してその時々の良さをお客に伝えて欲しいなぁと思うのです。(全員が封切り好きな訳じゃないのよ)」

呟きその2.「ちなみにそんなことは理解してくださってるとは思いますが、封切りを否定してるのではありません。好みは人それぞれですから。そうではなく、酒を提供するプロである飲食店さんはその辺を理解して「闇雲に封切りだけを有り難がる」風潮は止めませんか?というお話です。」


わかりづらいと思うので先に言っておくと、お酒は成長(熟成)します。それは生酒でも火入れ酒でも、です。そして封を開けてなくても開けてからも、です。開けたての味と瓶の底に残った味わいはまったくと言っていいほど別物になります(さらにそこに時間という掛け算が入ります)。・・・ということを念頭にお読みいただけるとわかりやすいと思います。


僕の実際の経験では昨年か一昨年でしたか、池袋の日本酒をウリにした某有名居酒屋に伺いまして(その時の接客の酷さが極まりなかった点ははさておき)、ある蔵の熟成生酒をお願いしたのです。そうしたらですね、いい歳したベテラン店員氏が意味不明なニヤニヤ顔で「口開け(封切り)ですよ~~~ラッキーですね~~~♪」なんて嬉しそうに僕らに言いまして、実は僕らみんな日本酒業界関係者だったもので「えっ?・・・ええ・・・(汗)」なんて返すのが精一杯で(苦笑)そして注がれたお酒を飲んでみれば当然の如くまだ眠りから覚めていないガッチガチの状態でその熟成感を楽しむどころの話ではなく、もちろん不味い訳では当然なく時間が経てば味が開くのもちゃんと見える素晴らしいお酒ではあったのですが、これを一般の飲み手の方が飲んだら「こんなもんなんだ。たいしたことないね。」で終わっちゃうよねぇ、と残念がったということがありました。

うちの店(地酒屋こだま)ではほぼ全てのお酒が試飲できるので、お客さまの好みから大雑把にいくつか僕がセレクトして最後の選択のためにそれを利用していただいているのですが、当然のことながらそれは「開けたて」ではないことが多い訳です。故にお客さまが「これがいい!」となった時でも「開けたてはもう少し香りと味がスリムでさっぱりしています。もしこの味が欲しいのならば開栓後3日くらいは待ってください。でも逆に開けたてはフレッシュで元気な味ですからそれを楽しむのも手ですよ。」などとアドバイスを重ねることが大切になってくるのです。

その観点から言うと前述の店員氏は「せっかくの熟成酒ですがちょうど口開けになってしまいます。開けたては味がまだ硬いため、このお酒のポテンシャルを全て感じていただくことはできないかも知れません。でも逆にそのフレッシュなニュアンスと熟成の片鱗を感じる楽しさもございます。如何いたしましょう?もしきちんとした熟成を味わいたいのであればちょうど○○が三日前に開けていい感じになってきています。そちらをお持ちすることもできますが。」と対応するのが正解なのです。(普通の飲食店さんにこんなこと求めませんが日本酒をウリにすんならこのくらいきちんと仕事しろよ!と僕は言いたいのです)


わかりやすく大雑把に表現するとですね・・・・・

1.封切り(口開け)の良さ⇒フレッシュさ、若さ、元気さ、癖のなさ

2.だいたい3日後~の良さ⇒深み、柔らかさ、その酒が持つ本来のポテンシャル

3.だいたい半月後~の良さ⇒熟成感、野太い旨味、濃醇なウマウマ感

適切な温度管理を前提として、本当に大雑把(3日後とか半月後とかいうのも厳密な意味ではありません)ですがこんな感じの良さが挙げられます。特に一升瓶を家呑みする方などは舌で実感していることも多いと思います。

逆にデメリットを挙げれば・・・・・

1.封切り(口開け)のデメリット⇒硬い、細い、本来の味が出ていない

3.だいたい半月後~のデメリット⇒くどい、老ねっぽい、重すぎる

だから実はお酒の会などでその場で開けてその日に全部飲んじゃうじゃないですか。あれって実は本来の味わいには程遠い味だったりする時も多いんですよ。開けて2時間くらい経って常温になったお酒を飲んで「あれ?最初に飲んだ時より美味しい♪」と思った経験ってありません?なのでこだま主催のお酒の会では趣旨に応じて数日前に開栓しておいたりその場でデキャンティングしたりなどの工夫をしているのです(変化を感じてもらうためにあえてそのまま、ということも含めて)。

なので、お酒を伝える身としては2.の封切ってだいたい3日後以降の味わいを是非味わって欲しいという気持ちはあります(もちろんお酒のタイプにもよりますよ)。

どうも飲食店さんっていまだに封切りを「ラッキー♪」と押し付けてくる感じがして違和感があるのです。で、その影響なのかやたら封切りを有り難がる飲み手も多いような気がして・・・確かに理論上、封切りに当たる確率は低くその意味ではラッキーに違いありません(笑)ただ飲食店も飲み手も、上記の「それぞれの味わい」を理解した上で楽しんで欲しいのです。


大切なので明確に書きますが、
封切り好きを否定しているのではありません。


先度書いた1~3、どれが好きかは人の好みですし、お酒のタイプによって、合わせる肴によって、体調によっても変わるのは当たり前です。ただ、特に日本酒をウリとする飲食店さんはこの辺をきちんと理解していただくと1本のお酒を3倍に使うことも可能になってくるのです。

飲食店さんでの例を挙げてみます。例えば、すっきりした辛口が飲みたい気持ちのお客さまがメニューに載ってる「○○(すっきり辛口)」をオーダー。そしてその○○は開けてから半月ほど経った残り僅かな状態でした。⇒「お客さま、こちらの○○は瓶の後半になり凄く旨みが乗って素晴らしい状態になっています。が、もし「すっきり」を期待されると逆に「旨すぎる」かも知れません。如何いたしましょう?やはりすっきりがご希望でしたらこちらの△△、これは辛口ではないのですが、これから封切りで逆にすっきり飲んでいただくことができるかも知れません。」なんていう提案も可能になります(あくまで一例です)。

逆に飲み手の方が居酒屋で出逢ったお酒、それがもし好みと違っていたとしても「あれは封切り直後だったから味乗りが悪かったのかも」とか、「そういえば最後の方だったから熟成感が好みに合わなかったのかなぁ」なんて前向きな考察も可能になってきます(笑)本来ならもう頼むことはないだろうそのお酒を「よし、次に見かけたらもう一回飲んでみよう」となるかも知れません。それでも好みと違うかも知れませんが(笑)要するに「楽しむ可能性が広がる」のです。


封切りは、フレッシュなお酒を好むお客さまにはラッキー♪であることには変わりません。が、いろいろな好みの方がいらっしゃるので、全てのお客さまにラッキーであるとは限らない、というお話でした。