あっ、今年初めての更新だ(笑)

あけましておめでとうございま・・・した!(笑)
本年も変わらず、「人の目を気にして生きるなんてくだらないことさ!byキヨシロー」をモットーに、謙虚に、言いたいことは遠慮なく言うスタンスで参ります。


いつも考えるとはなしに考えていることがあります。
ほんもの、または、ほんとうの日本酒ってなんだろうなぁ、って。
知れば知るほど、学べば学ぶほどわからなくなっていくのです。

たとえば酒造業って飲み手には見えない「技術」をたくさん持ってるのね。
会得してしまえばなんてことないという見方もできるけど、でもやっぱり凄い。

これって実はどんな業界にも言えて、身近だと料理もそう。
ふだん食べてるこの味ってこんな凄い技術の結果なんだなぁ、とか。

ただ、その「技術」が行き過ぎるとなんか「裏技」っぽくなる感覚ってわかります?

たとえば最近「生酛」とか「山廃酛」とか流行ってるというか原点回帰しているというか、以前より多く見かけるようになったじゃない。こないだのdancyuでも積極的に取り上げられて「いい傾向だなぁ」と思うのです。

わからない方に簡単な解説。

酒造りのスタートは「酛(もと)」または「酒母(しゅぼ)」と呼ばれる小さな仕込みからスタートするのですが、この酛を造るのに必須な「乳酸」をどのように取り込むのかがこの「○○酛」という名前の違いになります。

○生酛(きもと)・・・「山卸し」と呼ばれるお米をすり潰す面倒な作業をすることで蔵に付いている天然の乳酸菌を取り込み乳酸を発生させる方法

○山廃酛(やまはいもと)・・・先に述べた生酛と手法は同じだが生酛の重要作業「山卸し」を省略(廃止)して(酛タンクの中でかき混ぜるなどして)蔵に付いている天然の乳酸菌を取り込み乳酸を発生させる方法

○速醸酛(そくじょうもと)・・・酛には乳酸が必要、という酛造りのシステムが解き明かされた後に開発された方法で、事前に培養された「醸造用乳酸」のアンプルを酛タンクの中に放り込んで安全かつ早く乳酸を発生させる方法

現代の酒造りの大多数はこの速醸酛にて行われており、安全かつ早く酒造りができる代わりに全国どこの蔵の酒も同じ乳酸によって酛が造られるため似通った味わいになるという欠点を抱えてきたのです。わかりやすく言うとアレね、お母さんのぬか漬けは各家庭で味が違うのにみんなスーパーでぬか漬け買うようになってどこでぬか漬け食べても同じだよね、みたいな。

乳酸菌って僕らの身近にいっぱいいて、それぞれの蔵に住み着いている乳酸菌もそれぞれ種類が違うそうです。なので本来は各蔵で造る酛には各蔵の乳酸菌由来の乳酸が発生して各蔵の味わいを造ってきたはずなんだけど、それがいつしか中央で培養された同じ「醸造用乳酸」を使うのが普通になってしまって、さらにこれまた中央で培養された「協会酵母」を使う訳だから、いくら途中で蔵の乳酸菌や酵母が多少活躍したところで「みんな似たような味になっちゃうじゃん!」と今まで「速醸酛」しかやっていなかった蔵がその点に気付き、危機感を覚え始めて原点回帰の意味で「生酛」や「山廃酛」に取り組み始めた、っていうのがここ数年の動きなのです。

素晴らしい動きだと思います。どんどん加速して欲しい。
でもね、こんな風に書くと簡単そうに見えるけど実際はめちゃめちゃ大変なんですよ。

蔵独自の味を造るために自然乳酸を、とは言うけれど実際には乳酸菌って見えないじゃない。もやしもんじゃないんだからさ(笑)その見えないものが本当に取り込まれているのか、発生しているのか、繁殖しているのか、・・・・・造る方はドキドキですよ。だって酒造りに邪魔な他の雑菌もいるわけだし、乳酸が湧かずにそいつらばっかり湧いちゃって失敗したらどうしよう、という不安と戦いながら造り手は頑張っている訳なのです。それを考えると「速醸酛」は確実だし精神衛生上かなり楽だよね(笑)

でね、ここからが「技術」なのか「裏技」なのかわからなくなるお話。

酛に醸造用乳酸を添加すると「速醸酛」と呼ばれます。少なくとも「生酛」や「山廃酛」とは呼んではいけません。
では醸造用乳酸ではなく、培養した乳酸『菌』を添加すると、その酛はなんと呼ぶことができるでしょう?

1.まず、酛すりはやってないから生酛とは呼べない
2.しかし、醸造用乳酸を添加している訳ではないから速醸酛とは違う

という二つの理由から「山廃酛」と呼ぶことが可能となってくるのです。特に蔵の乳酸菌を分離・培養して添加したら確かに本来の山廃酛と同じといえる理屈が成り立ち、かつ、何より安全な醸造が可能になります。

どうでしょう?違和感ありますか?ないですか?

同じようなことが酵母にも言えます。
本来の生酛や山廃酛は、乳酸だけでなく酵母も蔵に住み着いている酵母で醸すべきという意見もあり実際に実践している蔵もありますが、現代の生酛や山廃酛では、ほとんど協会酵母や蔵で培養した酵母を添加しています。もちろん安全な醸造のためには不可欠なものです。

どうでしょう?違和感ありますか?ないですか?

一概に何が正しい、ということは僕には言えません。

たとえば、乳酸菌も添加せず、蔵付き酵母だけで醸す正統派の蔵から見たら「そんなの生酛(山廃酛)じゃねぇ!ふざけんな!」って思うかも知れませんし、逆に今まで速醸酛ばかりで生酛(山廃酛)に挑戦し始めたばかりの蔵から見たら「まずは会社経営のためにも安全醸造が鉄則。その中で可能な範囲で乳酸菌無添加や酵母無添加などのチャレンジを広げていくようにしないと出来るものも出来なくなる」と思ってることでしょう。

どちらも正論だとは思いませんか?

僕は性格上「これでなければダメ!」とはあまりならなくて、その人なりの事情(理由)の前提でこの事象が構築されているならばどちらも正しい、という見方をすることが多いです。ただ重視するのはその先の見通しや努力目標がきちんと掲げられているかどうかという点かも知れません。(そして必ず「僕ならこうする」を明確に所持しています)なので話は戻りますが、先ほどの両者の見解はどちらも支持したくなるのです。

日本酒業界は技術が進み過ぎたのかも知れません。
だからこそ歴史上で最も美味しいと言われる日本酒が誕生し楽しまれている。
本当に素晴らしい時代に生まれてきたと感じています。

技術の進歩は時に怠惰を招きます。
乳酸菌や酵母添加をする蔵が怠惰だとか言う訳ではありません。
ただどうしても、技術が進歩すると省力化や効率化へと繋がりやすく、企業の心構えによってはその道は怠惰へと続き、その怠惰こそが、長く続いた日本酒の不振・不信へと繋がった原因のひとつであることは間違いありません。

一般的にあまり正確には知られていない「醸造技術」は、乳酸や酵母以外にも(書ききれないくらい)いろいろあります。ほんの一部ですが、醸造用アルコール添加とか、四段掛けとか、濾過とか、水の加工とか・・・・・まぁ知っていたから偉い訳でもなく、また僕のように知ったつもりでも本当には理解できていない可能性もありますのであまりお勧めしません(笑)ちなみに本当に知りたかったら農大の醸造科でも入ってその後で蔵に勤めるのがベストです。

*水の加工については2009年(えらい昔だなぁw)に僕が書いたものがありますのでよかったらご覧になってみてください。⇒日本酒にとっての水の話


今回の話はだいぶマニアックになってしまいましたね。ま、いいか(笑)
難しいこと言うなよ!美味しければなんでもいいじゃん!なんて言われそうですね。ちなみに僕もそう思っています(本当です)。人間には二面以上の思考が矛盾しながら共存しているのだということをご理解いただけると僕という人間の思考が理解できるかも知れません。

今年はこの「ほんもの、または、ほんとうの日本酒ってなんだろう?」ってことはライフワークとして自分の中で少しずつ紐解きながら、ぼちぼち生きていきたいと思います。