先日、ご来店のお客さまとの会話でこんなことがありました。


会話その1:「僕、雄町のお酒って酸が出てて好きなんですよ」

会話その2:「僕、雄町のお酒って香りが出るから好きなんですよ」


これ、実は誤解です。というか正確ではありません。

もちろんその場できちんと説明をして誤解を解かせていただきました。

伺うとどうも居酒屋さんからの知識だったようですのでお客さまに罪はありません。


どうもこういう不確かな知識を飲み手に堂々と伝えちゃう「一応プロ」が多くて困ります。「なんとか師」とかいう資格を持ってたって何の役にも立たない、もしくは逆に知ったかぶって話して弊害があるのは本当に困ります。頼むから勉強してくれー!!!(切実)


雄町だから酸が出る、ということはありません。

雄町だから香りが出る、ということもありません。


これは醸造のプロ向けの記事ではないので醸造のことを詳しくは書きませんし書けませんので(笑)分かりやすく簡潔に言えば、酸も香りも、出る出ないは「酵母」の役割の方が圧倒的に大きいのです。そしてそれに続くのは「造り手の意図や技術」だと考えていただくと近いと思います。


その前提で先ほどの会話を分析(あくまで推測ですが)すると、


○○という蔵では雄町を使うと(その時にはAという酵母を使うことが多いので)酸(もしくは香り)が強めに出る(酒に仕上げた方が雄町という味の出やすい米を使った場合その酒質のバランスが取れるのでそういうタイプの)お酒になる。→略すと「○○という蔵では雄町を使うと酸(もしくは香り)が強めに出るお酒になる」になります。蔵元が、相手がわかってくれるという前提でこういう略した表現をしたものを誤解して一人歩きしまったケース、だったかも知れません。


また、雄町というお米の一般的に言われている「溶けやすく味が出やすい」性質から考えた場合ですが、味がしっかり出る濃醇な味にはある程度の酸がないとべたつく甘さだけが目立つ重い酒になりやすいし、濃い味にはある程度の香りがあった方が全体の酒質バランスが取れる、と考えればそういうタイプが自然と多くなるかも知れません。


*余談ですが、よく試飲会などで「うーん、この酒は○○錦らしい香りだね」とか言ってる方がいらっしゃいますがこれも間違い。あなたが感じているのは酵母由来の香りがほとんどです。優しい蔵元はそれを聞いても突っ込めず、心の中で「違うよ!」って思いながら苦笑いしていますよー(笑)


要するに、


雄町というお米の特性を鑑みると酸や香りのあるタイプのお酒が多い(かも知れない)、というところまでは言えるかも知れません。


逆に言えば、


雄町でも酸を抑えたお酒が醸せます。

雄町でも香りを抑えたお酒が醸せます。


すべては「造り手の意図」がそこに表れているだけです。


これは雄町だけではなくすべてのお米に対して当てはまります。そしてそれは造り手ひとりひとりによって違います。だからこそ同じお米と同じ酵母であったとしても趣の違うお酒が醸されるのです。


正解のない世界、だからこそ日本酒は面白いのです。



P.S.普通の飲み手の方はこんな厳密なこと知らなくていいと思います。が、地酒を提供する「プロ」の自覚がある立場の方は、この程度のことはきちんと学ぶべきだと僕は思っています。