誤解されてはいけないので先に言っておきますと、


造られた酒そのもののこと≒その酒がどんな意図でどんな経緯でどんな想いで造られたかをいちばんわかっているのは、間違いなく造り手であります。


今回はそういうお話ではなくて。



僕がお店でお客さまに「このお酒は冷やも抜群なんですけどお燗も最高なんですよ。55度くらいまで上げてからゆっくり燗冷まししながら飲むともう悶絶ですよ。」なんてお勧めするお酒があるんですが、それをたまたま来店して見ていた蔵元が「たけさん、今言ってたのマジですか?うちの蔵でこのお酒を燗で飲むやつ一人もいないですよ。」なんて仰る。それでは、とお店のポットで即席燗して飲んでもらうと「ええっ!旨いんですね!」と驚かれ、夜にお連れした取引先のお店で再度同じようにお燗して出すと「うわぁ・・・ホントに旨いんですねこの酒・・・知らなかったです・・・帰ったらみんなに勧めてみます。」・・・なんて話。


けっこう頻繁にあるんですよ、これが。


優秀な造り手は、必ずしも優秀な飲み手ではないのです。これは杜氏であれ、社長であれ、蔵人であれ、すべて同じことが言えます(もちろん中には優秀な飲み手という方もいらっしゃいますが)。


我々提供側、酒屋や飲食店は優秀な飲み手、そして飲ませ手でなくてはならない、と僕は考えています。そのお酒ひとつひとつのポテンシャルを見抜いて「どんなタイミングやシチュエーションでどんな温度で提供したら最高に美味しく飲んでもらえるか」を飲んでくれるお客さまにお伝えするのが僕らの仕事だからです。蔵元が出荷してきたからって味もチェックしないでただ漠然と酒を並べる酒屋や、蔵元や酒屋が冷やでお勧めするからってお燗を試そうともしない飲食店はプロとは呼べません。提供側の最大の醍醐味である「お客さまを感動させる」ことができるこの部分を放棄してしまうなんて、実にもったいない。


 *厳密にいえば、造り手には「こんな風に飲んでもらいたい」という意図もあったりします。それをもちろん尊重しながら「可能性を広げる」という感覚で仕事をしているのです。


 *ひとつだけ苦言を呈するなら、蔵元の中で「営業」の方だけは優秀な飲み手でなければならない、と僕は考えています。自分たちの酒の美味しい飲み方を、酒屋や飲食店に教えられてどうすんの(苦笑)


話が逸れました。

なので、瓶の裏書にお勧めの温度帯(冷や◎常温○ぬる燗△)とか書いてあっても参考程度にしてあまり鵜呑みにしないでいろいろ試すと楽しいかも知れません。造り手の中にはその辺を厳密に研究した上で書いている方もいらっしゃるかも知れませんが、造り手はあくまで造りのプロなのです。首都圏で頻繁に行われるようになった「蔵元を囲む会」などでもきっと新しい発見をしてお帰りになる蔵元も多いと思います。なんと言っても飲み手のダイレクトな反応に接することができる訳ですから、心ある蔵元はきっとそれを将来の酒造りに生かしていくはずです。


 *そういう時に酔った勢いで上から目線で蔵元に意見している方をたまに見かけますが見苦しいのでやめましょう(苦笑)


そのお酒をどう感じるか、そんなものに正解はありません。

強いて言えばご自身が感じたこと・・・たとえ他人が違うように感じたとしても・・・それがご自身にとっての正解なのです。

どうかその感覚を大切に、そして他人の感覚を尊重しながら、色眼鏡や偏見なしに日本酒を味わって欲しいなぁ、僕は思うのです。


また話が逸れました。

まぁ要するに、造り手さんより僕らの方がお酒のことわかってるかも知れないよ~~~!っていうお話でした(簡略化しすぎw)。