東京でも朝晩は少しずつ涼しさを感じるようになりました。

(日中はまだまだ熱い!暑いけどねー)

夏が好きな僕としては寂しい限りなんですけど・・・・・

(山下達郎のさよなら夏の日が頭の中でリフレイン)


日本酒が充実した飲み屋さんでも秋のお酒が並んでますね。

ひやおろし、秋あがり、なんて風情のある名前なんて正に日本らしくていいですね。

冷蔵技術の進歩に伴い熟成の足りない秋酒が多く見られることや、9月や早いところでは8月(!)にひやおろしを出してる蔵元があることなどは個人的には「???」ではありますが、それらの問題はまた別の機会に・・・・・


今日はちょっと別の角度から、僕の感じる問題点を書かせていただきます。


先日、ある銘酒居酒屋さんへ伺いました。

人気もあるし、肴もめちゃめちゃ美味いし、安いし、とても満足して帰ってきました。

(今回はそのお店をどうこう言いたいわけではないので詮索しないでください)


そのお店は店主さんお一人でやっているため、お料理はお任せコース、お酒は飲み放題にして一升瓶をどどどーん!と出してお客さん自身で勝手に飲むスタイルなんですね。

ものすごい種類の旬のお酒が自由に飲めるわけですから、我々日本酒ファンにはまさに垂涎。

お酒はお客さんに任せて店主さんは料理に没頭できるわけですからなかなか考えられた面白いシステムです。


まさに時は秋。お酒の大半がひやおろしや秋あがりなのです。

僕としてはまるで「秋酒試飲会」のような気持ちで(笑)楽しませていただきました。


あれこれ飲んでいるうちに、あることに気がつきました。

あれが美味しいね、あれもう一度飲もうよ、と人気のあったお酒がいくつかの銘柄に集中していることを。

そしてそれが「香りの高いもの」「味(旨味)の濃いもの」、要するに「わかりやすく美味しいお酒」に集中してしまっているのです。


これはマズイなぁ、と。


秋酒は「火入れ」と呼ばれる殺菌作業を一回しているものが多いのです。

ひやおろしと秋あがり、これは法規制のない言葉なので例外も多々ありますが簡単に解説すると以下のようになります。


≪ひやおろし≫

搾って間もないタイミングで火入れ→ひと夏寝かせて旨味を乗せる→秋には火入れをせずそのまま出荷する

(冷えたまま卸すからひやおろし、生詰とも呼びます)


≪秋あがり≫

搾った後火入れせずそのまま生のまま→ひと夏寝かせて旨味を乗せる→秋に火入れをして出荷する

(生のまま貯蔵するので生貯蔵、生貯とも呼びます)、もしくは完全に生のままのもの


秋あがりは火入れしないで生のまま寝かせるから、ひやおろしに比べて旨味は乗りやすい傾向があります。

また、ひやおろしの工程を経た秋あがり、秋あがりの工程を経たひやおろし、それから火入れをしない完全に生のままのひやおろしも存在する(もう、なにがなにやら・・・苦笑)ので一概には言えないのですが・・・・・


とりあえずここでは「一回火入れをしたもの」をひやおろし、秋あがりと定義して話を進めます。


で、何がマズイと思ったか。


同席したみなさんから今ひとつ敬遠された辛口系のひやおろしの中には、秋刀魚の塩焼きと抜群の相性のものもあったんです。

みなさんから人気を博した香り系ひやおろしでは、このよさはたぶんわからない。

店主さんが秋刀魚の塩焼きを出しながら、「この秋刀魚には○○のひやおろしと△△の秋あがりが抜群に合いますので試してみてくださいね」なんて一言言ってくれればこのお酒たちが輝くのに。


僕らの仕事は(日本酒に関して言えば)造り手の「想い」を飲み手に伝えること。

たぶんあのお酒、造り手は香り系とか嫌いでただ味が濃いだけのわかりやすい酒も嫌いで、酒単体では地味で今ひとつパッとしないけれど秋の食材と出逢った時にそのポテンシャルが発揮できるよう考えて造ったに違いない。


・・・のに。

提供側が伝えてあげなきゃマズイじゃん。


僕の持論ですが、一口(もしくは一杯)だけのインパクトは生原酒に勝るものはありません。

では、火入れ酒のよさはどんなところにあるのか?大雑把に言えばそれは、柔らかい優しさであり飲み飽きないことであり、ある意味大人のお酒なのかも知れません。

先ほど例に出した香り系や濃厚系の、生原酒に近いような秋酒は単独でも主役を張れるよう造り手が考えて醸したお酒でありそれは否定しません、というかそういうお酒も絶対に必要。

でもそういうお酒がウケるならそういう秋酒だけ選んで置いとけばいいわけで、先ほどのような地味な酒は必要ないわけで。


・・・ならば。

そういう地味な酒を置くならなおさら伝えてあげなきゃマズイじゃん。


ふと、思ったんです。

他のお店でも同じようなことはないかな?って。

いや、誤解しないでください。各お店が頑張っていることは百も承知しています。


でもね、現実的にあると思うんです。

秋だから~、売れるから~、って理由でなんとなく秋酒を揃えて、お客さんもメニュー見て「おっ、秋酒か♪」って頼んで、お店も「やっぱり秋の風物詩ですからねぇ」なんて言いながら提供して、数杯飲んだお客さんが「うーん、悪くはないんだけどやっぱりいつもの生原酒がいいや」って注文して、お店も「やっぱり○○さんはがっつり系がお好きですからねぇ」なんていうパターン。


今の「秋酒」と呼ばれるお酒の傾向や是非は置いといて。


現状での秋酒は総体的に「秋の味覚を引き立てる」前提の造りをしているものが多いと感じます。

生原酒のようなインパクトはなく、香りも控えめで柔らかいものが多い。

酒質もスリムで(この辺はちょっと問題も含んでますが)酒単体として「めちゃめちゃ旨い」ではなく肴と合わせた時に「うわ、これ旨い」と感じてもらえるものも多いのです。


提供側は、もっと勉強して伝えなきゃダメ。

そこまでやってられないよ、って言うならそういう秋酒は避けてわかりやすいものにしてあげてください。

いいじゃん、「ウチはわかりやすい秋酒と生原酒ばっかりなんですよねーそういう方が美味しいと思いますからねー」っていうお店の方が潔くて。


○○のひやおろしってパッとしないよねー。

△△の秋あがりってインパクトなさすぎだよねー。


・・・なんて会話が聞こえてくるたび、胸が痛むんです。


飲食店のみなさん、出すからにはその酒の個性をきちんと理解して飲み手に伝えてあげてください。

造り手の汗や努力までとは言いません、せめてそのお酒が無駄にならないように。


その上で、造り手さんには「本当に旨い秋の酒」を期待します。