東京にも地酒があります。


・・・・・というとたいがいの方から「えっ?」という反応を頂きます。

東京なんかで日本酒が造れるの?って驚かれることが多いです。

少し詳しい方なら「ああ、澤乃井とかいいですよね」などと嬉しい意見。


実際に東京都酒造組合さんのHP を見ると12もの蔵が存在します。

(うち2蔵は休蔵中、うち1蔵は委託醸造と聞いてはいますが)

しかし、ほとんどの蔵が自然の豊かな西に位置しているのです。


その中で唯一、23区内にて醸造しているのがこの小山酒造株式会社

主力銘柄の「丸眞正宗」の名前はご存知の方も多いかも知れません。

東京都北区岩淵町、分かりやすくいうと赤羽の駅から近い位置です。

そんな都会でお酒が造れるの?といったイメージかも知れません。

百聞は一見に如かず、ということで8月27日にお邪魔してまいりました。




今回の訪問は6月に端を発します。

東京都酒造組合の「一般公開初呑み切り」というイベントで

小山酒造の鈴木杜氏とお話させていただいたのが始まりなのです。


(その時の様子はこちらをご覧ください)


ちょっと無理を申し上げて、鈴木杜氏に案内をお願いした次第です。




南北線の赤羽岩淵駅から徒歩5分、

フツーの町の中に、小山酒造さんはありました。



やはりというか意外というか、近代的な建物です。




平成13年に建て替えられたそうで、

この建物の中で実際に醸造などの全ての作業をしています。




この蔵、立地条件から「江戸の酒」とも呼ばれますし

実際に小山酒造HP上でも「江戸の地酒」と謳っています。

なので江戸時代から続く蔵かというとさにあらず創業は明治11年、

初代の小山新七氏が生家である埼玉(指扇)の造り酒屋から独立して

「まるまる本物」という意を込めて「丸眞正宗」と命名したのが始まりです。


ですから「江戸時代の酒」ではなく「江戸に位置する酒」という意味で

この蔵は「江戸の香りを伝える酒」なのだと思っていただけたらと思います。

とはいえ創業から100年以上、その歴史も交えて案内して頂きました。




現在の建物は平成13年に建て替えられましたが

それまではこんな建物だったそうです。



雰囲気がありますね、創業からずっとそのままだったそうです。

この写真の玄関に設置された看板の現物が展示室に飾ってありました。



「愛酒報国」、間近で見ると迫力と趣のある看板です。




最近まで玄関そばの街道沿い(現:北本通り)にこんな看板を出して

造りに使っている地下130mから汲み上げた井戸水を提供していたそう。

秩父古成層を経た浦和山系の伏流水が今も蔵を支えています。

日本の水としては珍しいやや中硬水で、確かに少し味があります。

この時代になっても変わらぬ水質を保っているというから凄いです。





これが当時の蔵の全景、貴重な航空写真です。

奥に見える川は新河岸川、荒川水系隅田川の支流になります。


ところで・・・・・




この赤丸で囲んだところ、

よーく見ると石畳になっているの分かりますか?

この石畳、実は都電が走っていた時の線路の名残なんだそうです。

もちろん今は新しい建物でなくなってしまっている、と思いきや・・・



蔵の裏手の松尾様に続くこの道に石畳を移設してきたそうです。

全てを残せたわけではないでしょうが、なんだかホッとするお話です。



そしてお酒の神様、松尾様。

周りを見渡すと住宅なんですが、この空間だけ清々しいのが印象的。




僕と僕に関わるのんべたちが、

いつまでも楽しく呑み続けられるようお願いしてきました(笑)




先ほどから度々登場するこの「愛酒報国」という言葉、

実は創業当時からの大口のお客様が「軍隊」だったそうで

お酒を以って国に報いる気持ちを表した言葉なんだそうです。




さて、蔵の中を簡単にご案内します。





いきなり麹室ですがご容赦願います(笑)




平成13年に新造した、とてもキレイで天井の高い麹室です。

中級酒以上には箱麹を用い、その他も全て手作業で麹を作ります。

目指すは突きハゼ、そのため温度を上げすぎない麹作りのようです。



写真を撮り忘れてしまいましたが(笑)

原料処理(洗米など)から蒸米、放冷など基本は全て手作業、

一部の力仕事を機械に助けてもらう形で効率のよい蔵になっていました。


一箇所で温度管理も可能なようにこんな装置もありました。



今は造りの季節じゃないので参考値ですが、これは便利かも知れません。





造りのタンクが並ぶ部屋です。

背中にはヤブタ(搾り機)がでんと構えていました。




東京では厳寒期が少ないため、冷房管理がしっかりされています。

予想以上に小仕込(タンクが小さい)で、丁寧な造りが想像されます。




その隣にある貯蔵タンクの部屋。こちらは10℃に保たれます。




大吟醸と書かれたタンクに飛び込みたくなる衝動に駆られます(笑)




そしてこれは秘密の貯蔵庫、5℃に保たれます。

悩ましい色の斗瓶(袋吊り搾り)達が並び僕達を狂わせます(笑)




ここは造りの時期には酒母室として使われるそうです。



一通り案内をしていただいた後、いくつか試飲させていただきました。



お酒 純米吟醸酒(18BY)


 香りに乏しいので純米吟醸というよりは純米酒に近い感覚

 少し熟成が入り始めているが味が太くキレがいいから呑み飽きしない

 食中酒としては最適でいつまでも呑めてしまいそうな危険な酒(笑)



お酒 吟の舞


 スペックとしては大吟醸、ほのかな香りが好ましい

 一口目は水の味を、そして二口目から爽やかな酒の味を感じられる

 この「吟の舞」は東京関税局主導の統一ブランドでスペックに制約があり

 アルコール度13度はそのせいだが正直言って酒のよさを壊している

 せめて15度くらいで呑めると随分印象が変わると思うのだが・・・・・



お酒 本格辛口(普通酒・糖類添加なし)


 コクに厚みもあり、かといって重ったらしくもなく、旨い普通酒

 このお酒が丸眞正宗を支えているといっても過言ではないらしい

 屋台でも居酒屋でも、ちょっと洒落た店でも喜ばれる酒質だと思う

 ちなみにワンカップも中身はまったく同じ、是非とも冷やさず常温で。





総括して感じたことを少し。


総生産石数が約400石、これを3人程度で造っています。

ある程度は機械に頼らないと無理な数字ですが、

機械化とは無縁(頼っていないという意味)の手造りの蔵でした。

この蔵では3年の若き鈴木杜氏はまだ試行錯誤の感は否めませんが

(あ、そういえばこの日杜氏の誕生日でした!僕と同じ40歳♪)

あれだけ小さなタンクで手間をかけて造っている事実。

(余談ですがあんなに小さなタンクで普通酒を造る杜氏、僕は知らない)

丸眞の伝統を守りながら「何が出来るのか」いつも考えていらっしゃいます。


いわゆる鑑評会とか流行の無濾過生原酒とか、

今のところ小山酒造さんはそちらの方向を向いていないように思います。

地元の愛飲家をもっとも大切にし、変わらぬ酒を出すことを貫いています。


その蔵元の姿勢を十二分に認め実践しつつ、しかしその中で

新しいことへの意欲を秘めている・・・僕は鈴木杜氏にそれを感じました。

控えめだけど熱く大胆な鈴木杜氏を僕は応援したいと思います。





帰る道すがら、こんな自販機が。



丸眞正宗が地元で愛されていることを感じさせる瞬間でした。




この後、近くの居酒屋さんで鈴木杜氏を囲んで呑むことができました。


お伺いしたお店は板橋区役所前から徒歩5分、「彩膳ちくら」

四季酒の会の相方、all that jazz氏行きつけの素敵な和食屋さんです。

魚が新鮮で大将の手仕事が凄くて女将さんの対応が心地よい。


あまり紹介したくないので行きたい人は自分で探してください。←意地悪w


いやー、おおいに呑みおおいに語りました。

ここで話した内容は書けないことも多いので全部内緒で(笑)

しかし鈴木杜氏の「熱さ」に裏づけがとれた、これだけは書いておきます。


微力ながら、これから応援させてください。

鈴木杜氏、お忙しい中ありがとうございました。




【四季酒の会関連のお酒の会告知】



お酒 8月30日(土) 鶴乃江の秘密を暴く会w

   (会津の鶴乃江酒造さんを囲む会)


 夕方5時から西ヶ原の荒とよさんにて(会費3,300円)

 満席ですが無理すればあと2人くらい入れる・・・かも!?(笑)



お酒 9月25日(木) 大和川で目から鱗の酒の会

   (会津の大和川酒造さんを囲む会)


 夕方6時半から大塚のつなやさんにて(会費3,000円程度の予定)

 これから募集しますが狭いので20名くらいで満席です、お早めに!



お酒 10月25日(土) 四季酒の会・秋

   「秘蔵のひやおろしを堪能する夕べ(仮題)」


 夕方5時くらいから蕨のチョウゲン坊さんにて(会費6~7,000円程度)

 一般に出されない秘蔵のひやおろしをはじめ秋を満載でお届けします。



参加ご希望の方はプチメか、

連絡先を書かずにコメント下さい。(トラブルを避けるため)