凄い酒



というものがこの世にはある。


呑み手によっても違うし、その「凄い」方向にもいろいろある。

それでも日本酒を愛している者なら、大なり小なり



凄いっ、、、



と言葉を失った経験があるのではないだろか。


僕でいえば、過去にニ度ある。


一度目は日本酒開眼初期、新潟は長岡の吉乃川さんを訪ねた時。

蔵元直でしか買えない生酒(ラベルなし)を購入して帰って自宅で呑んだ。

口に含んだ瞬間、意識が飛んだ。

映画やTVで観たビッグバンの映像(みたいなの)が視界を支配した。

次の日、誰だかに興奮して「宇宙が見えたよ」と話していたのを覚えてる。

きっとあれは「無濾過生原酒」との初の出逢いだったのではないかと思う。

これは「インパクトと旨味の凄い酒」だった。


二度目は10年ほど前、松本の中島酒店さんプロデュースの「秋しん」

しゅうしん、と読む。長野は南佐久の橘倉酒造さんの造りによるお酒。

今は畑杜氏に代わっているが当時伊巻杜氏が総指揮をとっておられた。

何の雑味もない、まるで夜明けの静かな湖面のようなイントロから突然、

煌くようなそれでいて嫌味の一切ない美しい旨味が音もなく立ち上がる。

そして気付くとまた静寂の中、波紋ひとつない湖面に戻る、そんなお酒。

これは・・・いまだに上手く表現できないが「静かな旨さの凄い酒」かな。


一度目の吉乃川は、経験不足も多分にあると思う。

簡単に言えば、今呑めばそれほど感動しない可能性が高いということ。


二度目の秋しんも、今呑めばもっと冷静に客観的に分析できるとは思う。

もしくはそれほど感動しない可能性もある。


でもさ、そんなことどーでもいいじゃん。

って本気で思ってる。だってそん時は本気で感動したんだもん。

だから日本酒を伝える立場として、あの時の感動は忘れたくないと思う。



前置きが長くなりました。

でもこのブログ、前置きが長いというかクドイのが特徴なので我慢我慢(笑)


満寿泉


満寿泉 雄町 純米大吟醸 無濾過


醸造元:株式会社桝田酒造店 富山県東岩瀬町


購入元:ますもと  目黒区五本木


満寿泉


雄町を50%精米した純米大吟醸酒。

価格は一升で¥5,250、安い酒ではない。というか高い(笑)


ところが、これが凄い酒なのである。


ナニが凄いのか。



バランスが凄い



そうなのだ。この酒のバランスが凄いのだ。


蛇足ながら感想もちょっと述べておくことにする。

香りは一般的な吟醸香、雄町らしく無理矢理立たない好ましいもの。

口に含む・・・柔らかい。障りなく口中に広がる。とにかく何も障らない。

とても静かな酒で無理に前に出ようとするものがとにかく何もない。

ところが、静かに・・・そう、静かに旨味がグン!と広がってくる。

甘・酸・辛のハーモニーにいつしか舌が虜になる。ありゃりゃ♪(笑)

そう、派手さはないが旨味のバランスが秀逸なのだ。


今思い出したが、数年前に呑んだ長野の信濃鶴・純米大吟醸も

同じような「凄さ」を内包していたお酒だったなぁ。

あれは比較するともっともっと静かなお酒だったけれど。


満寿泉


無濾過生酒の「ガツン」系が好きな人には少々物足りないかも知れない。

しかしこのお酒の凄さを味わっておくのも決して悪いことではないと思う。


何度も言う。

酒の好みは十人十色。

この満寿泉より「旨い酒」なんざ世の中にゴマンとあります。


そうじゃなくて、その酒だけが持つ「凄さ」を認める舌も「アリ」なんです。

それが画一的でない「お酒の個性」を認めることにつながるしね。


正直言ってそう頻繁に呑める価格帯じゃないけれど(苦笑)

理想を持って頑張って欲しい蔵元さんのひとつです。