「おはようございます!」
勢いよく朝の挨拶をして、達也は店に入っていった。
「おはよう。ずいぶん元気がいいのね。」
晴美はそんな達也を見て微笑みながら挨拶を返した。
達也は確かに活気を取り戻していた。仕事に行くのが楽しみで仕方なかったのだ。
そう、まるで希望に満ち溢れた新入社員のように。
桜は、あの日以来週に2・3度店に顔を出した。
店に並んでいる花を楽しそうに眺めたり、気に入った花を買っていったり、時には達也や晴美とただ話をして帰る日もあった。
達也は桜が来るのを楽しみにしていたのだ。無意識の内に、店の前を通る人達の中に桜を探している時もあった。
何もすることがない時は、桜が店に来るたびに嬉しそうに眺めている小さな鉢植えを熱心に手入れしていた。
ある日晴海と雑談をしていた時に、晴美は何気なく達也に言った。
「達也君、最近楽しそうね。」
「え?」
不意をつかれ、達也は晴美が何のことを言っているのかわからなかった。
「桜ちゃんが頻繁に顔を出すようになってから、達也君ずいぶん楽しそうに仕事してるわよ。」
まるで自分の子供を見るような優しい顔で、達也に語りかけていた。
「そ、そうですか?」
自分では気がついていなかった、いや気づいていないふりをしていた達也は全てを見透かされたような罰の悪い顔で晴美の言葉を聞いていた。
実際、桜が来るようになってから店に出るのが楽しかったのだ。
「あの子はいい子ですもんね。明るくて素直だし。」
「は、はあ。」
晴美は少し意地の悪い笑顔で達也に話しかけていた。
「ねぇ、達也君。桜ちゃんの事好きならちゃんと伝えてあげないとね。」
「え・・・・?な、何言ってるんですか?」
思いがけず晴美から突っ込まれた達也は動揺を隠すのも忘れて晴美の顔を見ていた。
「わかるわよ、あなたの顔を見てたらね。何年人生の先輩だと思ってるの。」
「い、いや俺は別に・・・」
自分でも気づいていなかった心の奥底の想いを見透かされて、もはや言い訳も出来ていなかった。
「普通、買うのでもないのに花屋に通ってくる人なんてそうはいないわよ。それにいつも花を眺めているように見えるけど、あれは花じゃなくてあなたを見てるんだから。」
矢継ぎ早に話してくる晴美に、もはや達也は何も言えなくなっていた。
そう、達也はやっと自覚したのだ。自分が抱えている桜への想いが友人に対するものではなく、一人の女性に対する愛情だということを。
「ま、頑張りなさいよ。」
肩をポンとたたくと晴美は花の手入れに戻っていった。