第10話 「八女の実力⑤」
八女のノックアウトまであと2P。
清水はこんな展開を予想はしていなかった。前回の敗戦を踏まえた上での準備はしてきた。だが、競るどころか前回よりも離されている展開。
清水は気持ちが切れていた。
ほぼ敗戦濃厚である。が、清水の実力云々よりも八女の実力のせいである。そして、清水の切り替えが上手くなされていなかったためである。
八女のターン。
ボールをもらう八女。
ボールを持った瞬間ビタっと身体を寄せてボールを激しくチェックする清水。
清水の意地である。
ピボットを繰り返しスペースを確保しようとする八女。仕方なくドリブルをつき逃げる八女。
が、清水はビタっとつきバイオレーションを狙う。
八女「最初からその勢いなら、勝てたかもな」
そう清水にこぼした瞬間、八女はグッと低く右コートからドライブ。
清水はべたっとつく。
そのままステップを踏みゴールを狙いジャンプする八女。清水も身体をくっつけ八女と同時にジャンプする。
空中では八女が左手で八女の腕を抑えながら、右でダンクもしくはフックを狙う構え。
その時八女は違和感を感じた。
試合では感じることのないGが身体から感じた。八女の上ユニフォームがグッと清水に掴まれていたからだ。
清水はプライドを捨て苦肉の策に出たのだ。バランスを崩す八女。
しかし
清水「えっ!?」
八女は体制を立て直し、シュートに向かう。
ガコーー!!
八女のダンクが決まった。
一瞬シーンとなった会場は
すぐさま熱気を帯びた。
うぉーーーー!!!!
わぁーーー!!!
DJ23「決めた決めた決めたーー!!!八女のダンクー!!!勝利を決めるワンハンドダンクだー!!!」
ゴールを離し、コートに降り立つ八女。ふぅーとため息をしたあと、ギャラリーに向かって控えめに手を挙げた。
再び沸くギャラリー。
清水は腰に手を当て一点を集中しながら呆然と立ち尽くす。
あれだけの力でユニフォームを引っ張られれば、常人であれば体制を崩し素直にシュートをやめるのが普通である。
が、八女は違った。体幹の強さが尋常じゃないのだ。清水は八女にセンタープレイをされた時にその強さを感じていたが、それは八女の底ではなかった。
清水は侮っていたわけではないが、結果そうなってしまった。
今回の清水の敗因は、左が弱いなどの弱点ではない。
メンタルの切り替えができなかったこと、そして前回を踏まえたことの過剰な自信である。
しかし、それよりもどんなことよりも八女という男の未知の力が決定的な敗因であったと言える。
八女の勝利である。
八女が清水のもとへ向かい、握手を交わす。そして、勝利のアナウンスがされ八女対清水の試合は終了した。
続いて、リーグ戦終了と各種タイトルの発表があった。またプレーオフ開催の報告もされた。
プレーオフは一週間後に行われ、上位4名による決勝リーグで行われる。
そして本日の日程を終了し、ギャラリーと選手、スタッフが掃けはじめた。
ギャラリーは外で選手を出待ちし、サインをもらう者もいた。豊田は外でその様子を奈良と見ていた。15mくらい離れているだろうか。
八女がゲートから出てきた。
奈良「豊田、行かなくていいのか?」
豊田「…いや、いいです」
八女は送迎の車に乗り込もうとしていた。その時だった。豊田と奈良の存在に気付き、じっとこちらを見ていた。
奈良「あいつ、こっちに気づいてる…よな⁉︎」
豊田「…………」
見つめ合う、いや
にらみ合う豊田と八女。
その時間はたかだか5秒くらいだったが、奈良にとっては2~3分に感じた。そのくらい空気が重く、ピリピリしたものだった。
2人には言葉はいらなかった。
言いたいことは不思議とお互いにわかっていた、はずである。
出待ちファンがうるさいため、車に乗り込む八女。そして車は去って行った。
奈良「行っちまったなぁ…」
ナッシュ後藤、スタッフも早々に片付けを終え車に乗り込み去って行った。
奈良「豊田、お前明日学校で会うんだろ?あいつと」
豊田「…………そうですね」
2~3分経ってもそのまま立ち尽くす豊田。
何かピリピリとした空気に奈良は耐えられなかった。
奈良「じゃじゃあ、俺は先に帰るよ。またなー!」
奈良は自転車で足早に帰って行った。
奈良が去ってから2~3分後、豊田は大きく深呼吸してから帰路についた。
その背中からは何か熱いものがほとばしっているかのような、近づき難いオーラを漂わせていた。
このストリートバスケの世界、そしてその世界で覇者として君臨してい同級生の八女。
この二つの衝撃が豊田の何かを揺り動かした。
2人の運命はまだ交わったばかりだ。
豊田の熱く忘れられない一夜が
終わった。
to be continue
