ブロードウェイ版と映画サントラでは曲数と曲順に若干の異同がある。
ストーリーには大きな違いは無いが、この曲はブロードウェイ版では大詰め近くの27曲目、
一方映画版ではManchesterの次、6曲目にクレジットされている。
同時にこちらではもうひとつのタイトルFourscoreが併記されている。

scoreとは20年という単位を表す単語。
Fourscoreとはであるから80年、ということになる。
そう、かの有名なリンカーンGettysburg addressの冒頭の一言なのである。

Fourscore and seven years ago our fathers brought forth on this continent,
a new nation, conceived in Liverty, and dedicated to the proposition
that all men created equal.



アメリカの小学生、いやもしかするともっと幼いころから子供達が暗唱・朗読を学ぶ
最後に「人民の人民による~~」で結ばれるあまりにも有名な演説。

全体でも3分もかからぬ簡潔で流麗な文章で、
「自由の国アメリカ」の精神が十全に盛り込まれている。


不肖ながら拙訳を試みるとこうなる。

【87年前のこと、われらが父なる祖先たちはこの大陸に、
自由の理念から生じたものであり、
かつまたすべての人が平等に創られているという命題に捧げられた、
新たな国家を生み出しました。】


アメリカ人ならば、国歌の歌詞と同じぐらいみ~んな知っているこの一節をそのまま歌にしたのが、
『Abey baby/Fourscore』なのだった。
Abeyってのはエイブラハム・リンカーンのことだね。

高邁な自由と平等の精神は実際現実にはどうだったか。
あらためて問うまでもないよね。
若者たちは戦場に狩り出されていた。自由を剥奪されて。
アフリカ系アメリカ人や移民系アメリカ人は差別を受けていた。あからさまに。
なによりユダヤ系であるリンカーンその人も暗殺の凶弾に殪れたのだし。
だからこの曲は「Bang!」という歌詞でカットアウトされる。


全然理念の通りの国ぢゃないじゃん! という思いを最も効果的に最もアイロニーを込めて語るために、
作者はこの文章をそのまま使ったんだね。お見事!


ただし、この曲サントラには収録されているが映画本編ではカットされている。
おそらく政治的な理由ではなく、編集の都合だろう。
だからホントは『HAIR』はディレクターズカットがあってもいいはずなんだけどいまだに出てない。

すぐあとに始まるのがI'm black~Ain't got noである。