『Colored spade』に続いて歌われる、
田舎の素朴な青年クロード・フ-パー・ブコウスキーを歌う曲。
バーガーがリードし、クロードが答える男声のデュエット。

マリファナに酔い始めたクロードは最後には「自分は天才だ、天才映画監督なんだ」と放歌高吟してしまう。
曲は「イギリスのマンチェスター、大西洋の彼方」とはじまるがこれには深い意味は無い。
<もともとアメリカ人も海を超えてイギリスからやって来た。
はるか彼方から旅をして来たがそれとおなじくらい遠いオクラホマからやって来た、それがクロード。>
ぐらいのニュアンスだろう。

その上彼は移民の末裔、もともとはロマン・ポランスキーと同国人、
彼は(僕は)神を信じてる。
彼は(僕は)天才、それが彼(僕)。

と、歌われていく。

軽いタッチで歌われ、すぐ次の『I'm black』につながって行くが、
二人の主人公の邂逅と共感を表現した物語の前半における重要な曲。

クライマックスシーンでリプライズされ、
この歌詞が伏線になっている事がわかる。
それから物語全体に関わりが深い人物、ティモシー・リアリ-の名もこの歌にまず折り込まれている。

クロードはここで自らのアイデンティティに疑問を持ちはじめる。

なぜ、平和で平凡な牧場暮しを離れて、今僕はここに、ニューヨークなんかにいるんだろう?
そうか、徴兵されたんだ。ヴェトナムへ。
ヴェトナムっていったい何処だ? 何のための、誰のための戦いなんだ? 
僕は誰なんだ、何ものなんだ?

そんな考えが頭をもたげ始めたところで『I'm black』が歌われる。
そこでクロードは「僕は透明だ」としか自己を主張できないのに気付く。
ヒッピー達は明瞭に「俺は黒、俺はピンク、俺は漂白した白」と主張しているのにも関わらず。

『I'm black』は『Ain't got no』とワンセット。

俺達には何にも無い。でも何にも無いってことを俺達は知っている。
それが俺達ヒッピーの生活、だけど戦場に狩り出されるよりその方がましなんだ。

歌詞ではそんな事は書いてない。ただひたすらあれも無い、これも無いと綴られる。
しかし、言外に上のような意味が含まれているのだ、と解釈して差し支えないだろう。


怒濤のように、物語は核心に近付いて行く。