ブロードウェイ版、つまりオリジナルのサウンドトラックでは、
Aquariusに続いて歌われるのはDonna/Hashishなのだが、
ミロシュ・フォアマンの映画版の方ではこの順が逆になっている。
このブログでは映画版をベースに語っているので、その順で。

まずはSodomy。
お暇なら英和辞典を片手にお読みいただきたい。

9.11以来の合衆国の迷走について、多くの批評が語られて来た。相当数のテキストが手許にもある。
それについて語る場所としてここは相応しくないので掘り下げないが、
ひとつ、あらためて思ったのは、合衆国というのは中東の国々をはるかに凌ぐ宗教国家だということ。
キリスト教である。
キリスト教的倫理観、世界観が骨の髄までしみ込んでいる、ようだ。
ジョン・レノンの「僕らはキリストより偉い」発言で、
一気に全国的ビートルズバッシング(英国より激しかったと記憶する)を繰り広げるお国柄だ。

で、すべての言葉も神から齎されたもの、という前提の中で、
でも、じゃあなぜこんな汚い卑語があるのか。
それとも、カーマスートラで読みとけばそれも神に許された言葉であり、行為であるのか。

オクラホマの田舎から出て来た素朴な牧場の息子クロードと
セントラルパークに屯するヒッピーのバーガーが出会う。
純朴でそれゆえに保守的な倫理観の中に生きているクロードに向けて、
上流階級の娘シェイラを相手にからかい半分に歌いかけることで
神なんてホントにいるのか、おまえ信じてるのか、と諭す。
それが、この曲。

Sodomy, fellatio, cunnillingus, pederasty
Father, why do these words sound so nasty
Masturbation can be fun
Join the holy orgy Kama Sutra everyone

と、歌われる。

ハッキリ入って過激だ。これが流麗なスローバラードだから、パンクよりもなお過激だ。
子供でも、英語苦手なおいらでもはっきり聞き取れるし。
神への冒涜、その事自体が反体制のメッセージでもあったんだなあ。

美しいメロディなのでつい口ずさんでしまうが、少なくとも英語圏ではやめておこうと思う。

続いてDonna/hashish。

セントラルパークでは、30分か1時間単位で馬が借りれるらしい。さだかなことはわからないが。


バーガーたちヒッピーは上流階級のお嬢様・シェイラに猥歌(sodomy)を歌いかけるために
白に茶色の斑の馬を借りて伴走する。
しかし、都会の下町育ちの悲しさ、手も無く落馬してしまい、馬は勝手に駆けてゆく。

そこに居合わせたクロードはオクラホマの牧場の息子。カッコは田舎者丸出しだが、馬の扱いはおてのもの。
鮮やかに御するのみならず、曲乗りまでやってのける。
それが、バーガーとクロードの邂逅シーン。

ここで歌われるのが『DONNA』。
実在しない永遠の憧れの女性、16歳のヴァ-ジン、冒すべからざる神聖な乙女。それがドナ。
もちろんDonnaとは、マドンナ、つまり聖母マリアのこと。我らが主なる母=ノートル・ダム。
決して手の届かない彼女をさがし続けるおいらはサンフランシスコのサイケ野郎さ。
と、歌われる。
シェイラに一目惚れしてしまうクロードのことを歌ってるのだと思われる。
サンフランシスコは特に深い意味は無く、遠い西海岸からはるばるNYまで、というのを強調しているのだろう。

二又に分かれた道をクロードは左へ馬を走らせる。シェイラたちは右へと消えて行く。
悄然と引き揚げて来た彼は軍隊に入るまでのわずかな時間に大都会NYを存分にたのしむつもり。
「エムパイアステートビルに登って、マンハッタン周遊の船に乗って自由の女神を観るんだ、時間が無いんだ。ほかにどこかいいとこあるかな?」
満面の笑みをたたえてバーガーは答える。
「任せとけ」

そう、純朴な青年クロードはここで生まれて初めてドラッグ体験をするのだ。

Hashish,cocaine,heroine,opium,
L.S.D.,D.M.T.,S.T.P.,B.M.T.,A&P,I.R.T,A.P.C.,
alcohol,cigarettes,shoe polish,cough syrup,peyote,
sominol,dexamil,thorizine,trilophon,dexedrine,benzedrine,methedrine,
S-E-X,Y-O-U wowwwwww

ドラッグとクスリと毒になるもののオンパレードがそのまま歌詞。
曲名もズバリ『Hashish』。
サウンドトラックでは『DONNA』とメドレーで1曲につながっている。
クロードはバーガー達の生き方そのものに深く関わっていくことになる。
幾許かのカルチャーショックを伴いながら。

ここでのジョン・サべ-ジ(クロード役)の演技がホントに見事だ。
その田舎者ぶり、戸惑い、逡巡、含羞、気後れ、虚勢。
ドラッグによる目眩、酩酊。
わずかな動作、表情にいたるまで隙が無い。やっぱりこの人上手いわ。

そうして、いよいよ物語は動き出す。