去年の暮れから今年のアタマにかけて、
由紀さおりの再評価、ひいては歌謡曲の復権というものが取りざたされた。
それに関連してこの人の話を。

ピンと来る人がいるのかどうかわからないが、ちょっと毛色の違うフレンチポップでして。
ほとんどの曲をスキャットでやっている人ですな。
クラシック風に言うとヴォカリーズ。「ダバダ~」とか「ラララ~」で歌うアレだ。

特に有名なのが、『二人の天使』というもので、
これはたいがいの人が聴いたことあるんじゃないかな。
原題は『concerto pour une voix』、ひとつの声のための協奏曲、という意味になる。
他にも『シバの女王』や『シェルブールの雨傘』なども歌っている。
実は映画『シェルブールの雨傘』ではカトリーヌ・ドヌーヴの吹き替えをつとめていたのが彼女。
作曲者ミッシェル・ルグラン自らの依頼だったそうだ。
この映画は台詞のすべてが歌だから、実際彼女が主演していたも同じ。
だから、この曲では歌詞を歌っているが、その他はほとんどがスキャットである。

スキャットってつまりは、声をひとつの楽器ととらえているわけで、歌唱力はもとより、
音程、リズムの正確さ、そしてそもそもの声質の良さと声そのものの個性が問われるジャンルだ。

スキャットの発明者はルイ・アームストロングだと言われる。
トランペッターでありヴォーカリストであった彼がレコーディング中歌詞を忘れ、
「シュビドゥバ」とやって、それも面白いじゃ無いかとOKテイクになったのが嚆矢だとか。
それも、彼の超個性的な声あったればこそ。
スキャットのみでこれほど名を成した人をこの二人以外は聞かないから、
やはり特殊な才能なんだと思う。

ルイ・アームストロングは、ジャズをホームグラウンドにしている人だが、
ダニエル・リカーリはクラシック寄りの人。
30代以上の日本人にはなつかしくもお馴染みのポール・モーリアとの共演も多い。
最早帰らぬ人となってしまった。残念ながら。
リチャード・クレーダーマンがピアノを弾いた曲もある。

そういえば『愛と哀しみのボレロ』では、ラヴェルのボレロをヴォカリーズでやっていた。
ジュラルディン・チャップリンだったっけかな。

『男と女』も半分スキャットみたいなもんだ。
フレンチポップではひとつの文法になっているのかもしれない。
映画音楽というくくりでは特に。