蔵の奥のお姫様 その12 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 小さくても蔵は蔵。扉は頑丈だった。隙間もほとんどなく、ジェシンは見回して小さな明り取りの窓を見つけた。壁の上の方にあるから、いくら背の高いジェシンでも届きはしない。だが背が高いので耳の一は窓に近い。多少中の会話は聞こえるだろう。

 

 ほんの興味本位だった。親戚の親父が花妻に欲しいというほどだから、若さはともかく美しいのだろう。何しろその弟ユンシクも華奢で可愛らしい容貌をしている。少年というより少女のようなみずみずしさだ。漢詩に良く例えられる、桃のような、という表現がぴったりだと思った。

 

 はきはきして、気が弱そうに見えて必死に胸を張って家族を守ろうと奮闘している姿は、つい味方になってやりたいほどの健気さを感じさせた。いや、ほぼ被害者確定であるから、味方をするのは当たり前だろう、とは思うのだが、何しろけが人からはまだ話も聞けず、刃物を振り回した人物は分かっているのに行方不明だ。この一家にこれ以上の厄災がおこらないようにするには、おそらく争いの種の一つになったであろう姉娘も保護をしなければならない。

 

 言い訳は湧いて出て来るけれど、結局は興味本位だと分かっていて、ジェシンは窓の下に立った。壁に背を向けもたれかかり、腕を組んで静かに気配を消した。

 

 ぼそぼそと声が聞こえる。はっきりとは聴こえねえな、と思いながらも、声の高さで男女だとははっきりわかり、子供みたいでもあいつ男なんだな、と笑いそうになったところで固まった。

 

 低すぎる。

 

 男の方の声が、さっきまで聞いていたユンシクの声より低いのだ。ジェシンやヨンハほどの低音ではないが、声変りを終えた男の声だ。ユンシクは・・・落ち着いた声だったが、まだ声変わりしていないような高さの声だった。容姿とにあっているので、違和感がなかっただけだ。

 

 誰がいる?こうなったら高い方の声が今蔵に入って行ったばかりのユンシクのものだ。ここにいるのは、かくまっているという姉娘じゃないのか?

 

 険しい顔でジェシンは周りを見渡した。ただ山の中腹にある屋敷ゆえ、敷地の端にある蔵は背後と側面が山というか斜面、片方の側面が塀でその外側は急斜面が降っている。ジェシンがいるところは人ひとりが通れる斜面側の側面だった。

 

 ままよ、とジェシンは斜面に片足をかけた。木の根が張り出して足を引っかけるところはあった。暗がりの中、手探りで探したその引っ掛かりに体重を乗せ二歩、よじ登った。しかしそうなると壁は遠ざかる。ジェシンはできるだけ気を付けて、そっと、素早く片足を壁につけた。

 

 壁と斜面に突っ張るように足を掛けて、ジェシンは壁側の膝をぐっと曲げて窓の木枠に手をかける。脚力のなせる業だ。かろうじて眼だけが蔵の中の一部を覗けるほどまどに寄せることができた。

 

 蔵の中は灯が一つ。壁に揺れる影は二つ。ジェシンからして右のほう、正面の扉からすれば一番奥が少し板場が高く設えてあるようで、そこに床がのべてあるのが見えた。

 

 その板場に腰掛けているのが、今入っていったユンシク。そしてその床の上にきちんと座っているのが。

 

 男だった。

 

 横目で見る故、容貌ははっきりとは見えない。だが動きでどちらがしゃべるかは分かる、とジェシンは目を凝らし、耳をすませた。

 

 ・・・ですから人がいます。しばらくはここで養生していなさい

 

 ・・・申し訳ありません姉上・・・僕がまた熱を出したばかりに

 

 ・・・今回は長引かずに済んだじゃない・・・もう平熱ね、勉強していなさいな、表のことは私がいたします

 

 ・・・でも姉上、髪まで切ることなど・・・なかったのではないですか?母上は何とおっしゃいましたか?お嘆きになったでしょう

 

 ・・・緊急のことです。いたし方ありません。しばらくは私がユンシク、あなたとして家を守っていなければ、どうしようもなかった非常事態だったのです。髪はまた・・・伸びますよ。これは付け髪用に売りましょうか?

 

 ・・・姉上・・・僕は体を治して、姉上に報いるよう努力します、どうぞ危ない事だけは・・・

 

 「大丈夫よユンシク。私の覚悟は髪を切ったときに決まりました。お父様にあんなけがを負わせたハ・ウジュが捕まるまで、どうしたってキム家を守って見せます。お父様の怪我も治して見せます。とは言っても、治療をしてくださったのはお医師様ですし、お医師様をお連れ下さったのはムン・ジェシン様という都の方とその配下の兵の方が棚のよ。」

 

 さっきまでジェシンが『ユンシク』と認識していた者が、実は姉娘の方だった、と気づいたとき、ジェシンはあまりの驚きに足を滑らせそうになってしまった。

 

 

 

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