蔵の奥のお姫様 その5 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 改めて名を聞くと、少年はやはり『キム・ユンシク』であると答えた。そして、父親を切ったであろう『大叔父』と彼が呼ぶ親戚の名は『ハ・ウジュ』。祖父の一番下の妹の夫だという。父からすれば叔父になるのだが、父親より少しだけ年上なだけなのだという。祖父の代は兄弟姉妹がそこそこいたが、もう近隣にはその叔母が嫁いだ家しか残っていないという。田舎故、徐々に子供たちの奉職に従って皆この土地を離れていってしまった。キム家は本家でもあり、朝鮮ニンジンの栽培と販路の管理をしていたせいもあり、動く必要もなかったという。

 

 それを詳しく聞いたのは、彼の父親、現キム家の当主の容態を見た後だった。彼はかろうじて生きていた。意識もあった。ただ、素人手当故、血止めが甘かったのだろう、出血が続いていたのと、十分な薬が与えられない状況だった。ジェシンは兵を呼び入れ、手当てをやり直させた。負傷を前提とした職だ。初歩的な血止めなどの手当てを皆知っている。

 

 素人ながら、あるだけの知識はすべて使って治療に当たっていたらしい。巻き付けられている晒は清潔だったし、来た時に洗っていたものは、汚れを取った後煮沸する予定だったようだ。使っていたのは屋敷に偶然あった、擦り傷やあかぎれ用の軟膏。切り傷に有効かどうかは別にしても、傷口を防護する役目は多少果たしている、と晒を巻き直した兵は報告した。

 

 「本来は縫った方がいい傷です。一部はかなり深く、何より傷口が長い。どれだけ血が流れたか、ちょっとわからないですね。」

 

 太い動脈は切れていないが、あれだけあちこちの血管が切れていれば、と首をかしげるのは、矢張りあまりいい容体ではないからだろう。熱も発している。ものも食べれていないらしい。湯冷まし、ひと匙ふた匙の重湯、それと熱さましの薬湯を流し入れて数日を耐えてきたのだ。体力も限界だろう。

 

 「近隣の町まで走れ。医師を見つけてこい。容体を言って、薬なども用意して戻ってこい。すぐだ。」

 

 ジェシンは兵二人を走らせた。兵が二人、走り出ていくのを呆然と眺めたユンシクは、へた、と父親の枕元に座り込んだ。震える手で桶の中に手を突っ込み、手拭いをぎゅうと絞ると、目を苦し気につむった父親の額にそっと置いた。

 

 「他のご家族は・・・こちらのご妻女は・・・?」

 

 ジェシンが訊ねると、ユンシクはもう一枚の手ぬぐいで父親の首筋を拭いながら、うつむいたまま答えた。

 

 「あまりに動転してしまい・・・寝込んでしまいました。」

 

 視線は壁の向こうに向く。隣部屋に寝かせているようだった。

 

 「おと・・・僕に・・・外に出てはいけない、父と同じことをされてしまうとうなされるので、僕は父と母の面倒を行ったり来たりして見ざるを得なくて、外に出るどころではありません。」

 

 少し苦笑したユンシクが何か言い直したような感じがしながら、ジェシンは戸籍をまた思い浮かべた。

 

 「もうお一方・・・ご令嬢がおられるはずだが、ご無事か?」

 

 ユンシクが身を固くした気配があった。

 

 「もしかして・・・ご令嬢を外に出されたか?」

 

 母が跡取りである男子の無事を心配するのは、家の存続の問題があるのだからわからないでもない。だが、と言って娘を外に出すようなことはないだろうと思いながらも、万が一を考えざるを得なかった。何しろ、姿かたちがないのだから。

 

 「いえ・・・あ・・・姉は奥に・・・かくまっております。」

 

 「かくまう?」

 

 物騒な物言いに、ジェシンは片眉をあげた。確かに屋敷内でよく知る人物に危害を加えられた直後だ。だが、跡取りのユンシクは両親の手当てにうろうろと働いているのに、なぜ人手の助けとなる姉をかくまう、などと。

 

 「大叔父は・・・姉に・・・下品な申し出をしておりました・・・花妻にならないか、と・・・それも父との言い争いの原因の一つだと、思われます。茶を出す役割も反対したのですが、母が最近目を悪くしていて、夜ははやく休ませますので、あのような夜分の客人の時は姉がどうしても茶を供します・・・。母も。それから僕も。大叔父がこちらが弱っているのをいいことにやってきたら姉を連れて行かれるかもしれないと思って・・・。」

 

 隠しました。

 

 

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