この世の華 その34 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「キム・ユンシク様の墓前にお参りに行かれた帰りのご夫妻にお会いしたときは、結構元気を取り戻しておられたようにお見受けしたが・・・。」

 

 ウジョンがそう言うと、ビョクスはうんうんと頷いた。

 

 「本日も自らお出ましいただいて、直接お礼のお託を頂きましたよ・・・。本当に若い頃とお変わりない、飾らないままのご気性で・・・。」

 

 「お前はかなりムンご夫妻との面識は長いのか?」

 

 思わずウジョンは聞いた。ク・ヨンハの下人だから知り合いであることに不思議はないが、それでもまるで旧知の関係のように聞こえる。

 

 「はい。私は実はガキの頃は成均館の下働きでして・・・。特にテムル様・・・キム・ユンシク様にはご迷惑もかけ、ご恩も受けておりました。」

 

 

 私がやったチンケな罪を、テムル様は寛大にも許してくださったのです。他の儒生だったら、私は罰を受けて成均館から追い出され、稼ぐ手立てをなくしていたでしょう。当時テムル様は成均館の中でも年若の方で、その上お美しくて…まるで少女の様でした。私には女神さまのようなお方でした。テムル様のお仲間・・・『花の四人衆』の皆様は私たち書吏や守僕、下働きの子ども達にも優しい方々で、特にコロ様・・・ムン大監様は子供たちが大層慕っておりました。別にお構いになるわけじゃないんです。ですが優しい方というのは子供は分かるんですよ。私の弟も、コロ様コロ様、とよく言っておりました。

 私はテムル様に・・・ご恩を返すことなどできませんでした。成均館におられたのは三年にも満たないんですよ、テムル様は。すぐに大科に合格してしまわれたんです。ですから・・・どうにかしてご恩を返す場所に行かなければならなかったんです。主に頭を下げて頼みました。下人に雇ってくれ、身分を変える金がかかるなら、その分を私の年季に加えて給金なしでも構わない、役に立つよう勉強する、何でもする、ってね。主のク・ヨンハは面白がって俺の頼み通りにしてくれました。おかげでこうやって、キム・ユンシク様、コロ様の奥方様になられたキム・ユニ様のお役に少しは立ててると思うんです。

 はは・・・女神様なんてキム・ユンシク様に失礼では、ですか・・・。

 テムル様はそんなことでお怒りはされないですよ、照れはされると思いますし、まあご本人の前で言ったことはないですからね、流石に。ああ、男に女神などと、という事ですね。そうですねえ・・・でもキム様、あの頃のテムル様の美しさは、無垢と、清潔さに満ちていて、声まで優しく少し高くて・・・もう、その美しさと優しさで、他に言いようがなかったんですよう・・・。

 一生をかけてご恩返しをするつもりなんです。ええ。そうです。テムル様の姉上様にご恩返しをすることは、テムル様にご恩返しをすることと同じなんですよ。あのご姉弟は・・・お二人でお一人でございました。今でもです。例え一人がお亡くなりになっても、今も姉上様の中にテムル様はおられます。本当に仲の良い、お互いを労わり合う優しいご姉弟なんですから・・・。ですから私のご恩返しは続くんです。それは本当にうれしい事です。いつまでも私はお仕え続けますよ。いやですよ、主にじゃないですよ、あの方はまあ・・・恩は感じてますが、それ以上に迷惑もかけられるんで!

 

 短いような長いような話の後別れ、ウジョンは一人家路をたどった。

 

 自分はほとほと平凡だと思った。何人か友人はいる。しかし、死んでなお、家族の悲嘆まで気に掛け続けてくれる奴はいるだろうか、仲間が・・・ウタクが、イ・ソンジュンが、ク・ヨンハが語ったように、若き日の思い出を笑顔でありありと思い出してくれるだろうか、人に語るほど懐かしがってくれるだろうか、仕事ぶりをほめたたえてくれる職場のものがいるだろうか、身分の違う者が、ビョクスのように崇め称えてくれるだろうか。

 

 すべて否、である。自分は何も残せない人間なのだとつくづく思い、何だか項垂れてしまう。元気のないまま屋敷に戻り、もそもそと夕餉を食い、妻に断って一人寝をした。一人になりたい気分だった。

 

 夢うつつに浮かぶのは、あの日、ムン大監に手を取られ歩いていく奥方の後ろ姿。ビョクスの言葉がよみがえる。あのご姉弟は、お二人でお一人でございますよ・・・。

 

 奥方の姿がふうっと振り返り、そして姿を変えた。儒生姿の奥方がそこにいた。あの顔で、あの嫋やかな微笑みのままに、儒生服を着て立っている。

 

 そしてその隣にはたちまちのうちに三人の姿が現れた。勿論。

 

 ああ、『花の四人衆』だ・・・。

 

 

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