㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「ユニが・・・君がいてくれて助かった、と言った時、少し嫉妬した、俺は。」
少しのためらいの後こぼされた言葉は、決して大きい声ではないというのに、ソンジュンにははっきりと聞こえてきた。目の前ではテーブルを挟んで座るヨンハとドヒャンアジョシ、ユニの三人が騒いでいる。騒いでいるのはドヒャンアジョシだが。ね落ちる直前になって、ユニがスケこまし(ヨンハのこと)に絡まれていると思い込み、守らねば、と頑張ることにしたらしい。設定は『俺の娘に何手を出してるんだ』ということになっているようで、ジェシンとソンジュンを蚊帳の外にして修羅場の小芝居が始まっていた。とは言っても揉めているのはヨンハとドヒャンの二人だけで、ユニはドヒャンにしがみつかれながら笑っているだけだが。
「初めてユニに聞いたも同然だった。俺はユニにとって役に立つ男なのか、っていう意味にとられても仕方がなかった。あいつにとって君がいてくれた意味があったように、俺にもあいつにとって何か意味がある存在なのか、とずっと多分聞きたかったんだ。だっておれは、ユニはいつか、昔夢見て、そして自分のせいでなくとん挫した幼稚園の先生という職に戻り、俺の元から去っていくんじゃないか、ってよ・・・。俺のところにいるのはただのつなぎ。働き先がなかったから助け舟に乗っただけの話だったからな。」
「・・・そんな風に思う人じゃないと思います、ユニさんは・・・。」
「分かった風に言われるとちょっと腹が立つが・・・まあその通りだ。分かってたはずなんだ、そんな軽い気持ちで何かをするような奴じゃないってよ。逆なんだよ。俺が気づいたのはそこなんだ。周りから見りゃ、俺がユニを雇ってる側だ。ユニが、お役に立ってますか、って聞く側に見えるだろ?違うんだよ。俺が必死に、ユニを引き留めようとしてた。あいつの役に立つことで。雇い主として。でもやってることは嫉妬深い男そのものだよ。危険なことが少しでもあるんじゃないかと思ったら送り迎えして、周りにも過剰に頼んで。なのに昼の事務所の仕事も夜の引っ越しの仕事も一緒にすることを望んでよ・・・。」
目の前では、お嬢さんを僕に下さい!とヨンハが叫んでいる。ドヒャンは、ダメだダメだ、うちの娘に触るんじゃない、と叫び返している。ユニは笑っていた。幸せにします!とまたヨンハが叫んだ。暮らしに困らせたりしません!とも叫んだ。ドヒャンが、そんなもの意味がねえんだ!と叫び返して、なあユニちゃん!と呼び掛けた。ユニはうふうふ笑っている。うん、私も働くからね、とドヒャンに同調し、ほら、うちの娘は凄いだろ、とドヒャンは自慢げに唸った。
「怖がって・・・ユニがいなくなるのがなぜ怖いのかに目をつぶって、ユニがいつまでも俺のところで働けるように、マイナスな芽は摘んでたんだ。必死に。ユニと話したときに気付いた。だから聞いちまった・・・戻るか、って。幼稚園の仕事に。」
ソンジュンがジェシンの話の続きをつばを飲み込みながら聞こうとすると、目の前でユニが高らかにヨンハに宣言していた。
「私ね、先生の所でずっと働くことに決まったの。だからヨンハさん、ヨンハさんのお嫁さんにはなれないわ。ね、アジョシ?」
「おおそうだ!うちの娘はうちの先生の嫁さんになるって決まってるんだ!あんたなんか及びじゃねえぞ、お坊ちゃんよぉ!」
「酷いっ!」
よよと泣き崩れる、真似をするヨンハと、勝ち誇ったように胸を張るドヒャン。その胸に抱えられるようにして笑っているユニ。
「・・・あれが、答えですか、ユニさんの?」
「・・・まあ、そんなところだ。」
ねえ、コロは、コロは何て言ったの?とヨンハがすぐに立ち直ってドヒャンの肩越しにユニを覗き込んでいる。ちけえな、と眉をしかめるジェシンの横顔を見てから、ソンジュンもユニ達の方を見た。ユニはやっぱり笑っていた。
「私と一緒に仕事をするのが当たり前になったって言ってくださったから、私もこのまま一緒に働かせてほしい、ってお願いしたんです。それだけ。でもずっといていいんですって。永久就職なんですって。」
と答えたユニに、ジェシンは額を押さえ、ヨンハは爆笑した。
「コロ!プロポーズするならちゃんとしろ!」