㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「調べてはおいたんだ。」
と、ジェシンはソンジュンに言った。
「まだ規模は小さい、とは言っても500人前後の信者というか入会者はいる。キリスト教でも仏教でもない、神というのは口だけ、実際は霊視をする教団代表を狂信する集まりだな。」
規模がまだ小さいだけに、中心に近い信者たち・・・幹部と言われる数人、もしくは数十人の力が組織の隅々に十分に及ぶ。幹部たちにとって、教祖の言はすべて正であり聖。それを否定するものは悪。だが、いくら小さいとは言っても端っこの方にはほころびが出る。または幹部と呼ばれる人の家族親族だって全員が同じ思想なわけはなく、実際今回だって、逃げた女性とその兄は両親の信じる教祖を信じていないからこその夜逃げだったのだ。
という事をつらつらと述べたジェシンは、
「ただ、こういう何かを信じ込んでいる人たちは、正義のために何をしても許されると思い込む・・・思い込まされる。例え他の人の意志などまるっきり無視してでもな。信じる人や神のいう通りにしなければ、
自分たちの来世が保証されないわけだ。あなたのため、と言いながら、結局は自分のためなことがほとんどなのに、それに気づかない。だから狂信というんだ。話が通じない。だから怖い。」
と言った。その通りだろう。何をされるのかわかったものではない。実際ユニは腕を掴まれ、連れて行かれるか、その場で脅され問い詰められるところだった。彼らにとってはそれは正義なのだ。信者の娘は教祖が決めた結婚で幸せになり、信者も幸せになり、それで教団は潤う。彼らにとっていい事しかないのに、そのいいことをいけにえになる女性が逃げたのだ。必死にもなる。神・・・教祖の怒りに触れるから。
「・・・警備は頼めたんですか?」
「ああ。今の所実害を訴えたわけじゃねえからパトロールだけだが、それでも警官の姿ってのは抑止力になるんだ。頭が信仰で一杯で現実が認識できないのに、それでも法治国家に生きてきた理性ってのは残ってるんだな。警察沙汰になってはまずい、ってのは分かるんだ。こすいというか、馬鹿らしいというか・・・。」
今夜の引っ越しは夜逃げではない。忙しすぎて日中に全く時間が取れないという売れっ子のオンラインヨガ教師。夜は自分の健康のために10時以降の予約を取らない。今回は引っ越しのために頑張って明日の昼までの予約をどうにか回避したのだ。それに半年もかかった。だから半年前からの予約。振り込みも済み、引っ越し先は今よりも部屋数が増える。スタジオと自宅を兼ねるための引っ越しなのだ。言ってみたらめでたい引っ越し。みそをつけたくはない。
「ご父君にご相談されたんですか・・・?」
ソンジュンがそう聞くと、はあ、っとジェシンはため息をついた。
「やっぱり知ってるよな。ご父君なんて大した呼ばれ方するような親父じゃねえんだけどな。一応役職に就いてるもんだから、勝手に・・・まあそこを利用してるって言われりゃそれまでなんだが、俺が警察関係者の息子ってのはちゃんと情報共有されててよ・・・弁護士やってるせいもあるんだが。まあ、頼まれてくれる。」
ヨンハに聞いたか、と聞いてくるので
「いえ、父に。」
と答えると、ジェシンは納得したように頷いた。なんだ、先生だって俺の父のこと知っているじゃないですか。
「とにかく、今夜の仕事は、客に迷惑を掛けないこととユニから決して目を離さないことだ。来るとは限らないが、来そうな・・・気がする。」
ジェシンは髪をガシガシ、とかきむしった。それからデスクから腰を上げ、仕事する、と言った。そうだった。先生は今、弁護士の時間だ、とソンジュンは三階に戻ろうとした。するとジェシンがPCの画面をソンジュンに向けた。
調べたであろう、今回の厄介を引き起こしている団体のホームページがあった。その名を頭に叩き込んで、ソンジュンは部屋を出た。ドアは閉めた。何しろ、三階の事務所には自分がいるのだ。大丈夫だ、という事を言いたかった。