㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
結局いつも行く店に食べに行った三人。
「今日も両手に花でいいねえ、ユニちゃん!」
喫茶店のアジュマはいつ休んでいるのだろう、と思うほど店にいて、三人で行けば毎回同じことを言う。ソンジュンが研修で『月ウサギ配送サービス』に世話になって以来、何度かそろってきているし事情は知っているはずなのに。
「両手に花は先生よ。」
とユニも毎回同じ返事をして一緒になって笑っている。女性って本当にわからない。何が面白いんだか。というよりソンジュンはアジュマに上手く返答できる自信がない。ジェシンをこっそり見ると、知らんふりをしている。それが一番賢明なのかもしれない、と一つソンジュンは勉強した気分になって座った。
奢ると言われても、大体ここで食べるときにソンジュンは金を出したことがない。ジェシンがいくらかまとめて預けてあるからだ。そこから出しといて、とジェシンが言って出てしまう。出前を頼むこともあるし、その度に金を用意するのが面倒だ、とのことだ。でもつけは嫌いだから、先に預けておくという考えに至ったのだと聞いた。
「お引っ越し屋さんがあるのかい?今日弁護士先生のお仕事はお休みだろ?」
「今日はお引越しもないの。先生が最近忙しすぎてお家に帰れてないから、お掃除してゆっくり寝かせてあげようと思って行って来たの。」
「何でこっちに戻ってきてるんだい、添い寝してやりゃいいのに!」
にやにやと笑うアジュマの視線はジェシンに向かっている。ソンジュンは自分は関係ないのに妙にムッとしてしまった。なんてことを言うんだこの人は・・・。
「先生は子供じゃないんだから。帰って寝てもらうわ。戻ってきたのはねえ、先生の着替えをね、こっちにもう少し置いておかないと、いちいちパ・・・!」
ものすごいスピードでジェシンがユニの口をふさいだ。ユニを真ん中にコの字に座っていて正解だったと思うほど抜群の位置取りだった。
なにじゃれてんだい、と言いながら他の客の対応へ行ってしまったアジュマの後ろ姿を見ながら息を吐いたのは、ジェシンだけでなくソンジュンも一緒だった。ユニさん、絶対パンツって言おうとしただろ。
「何で口塞ぐのォ・・・。」
ユニが抗議する中、ジェシンは顔をぐっと近づけて低い声を出した。
「人に俺の下着の話をすんな。」
「どうして?」
どうしてもこうしても、とジェシンはぶつぶつ言った。ソンジュンも思う。どうしてユニさんは分からないのだろう。自分たち男同士や、世間話の一環で自分で口にするならともかく、好ましい女の子の口から自分のパンツの話はしてほしくない、照れてしまうのだという事を。まず、自分のパンツについて把握されていること自体が恥ずかしいのだが、ジェシンはそれをユニのトートバッグの中にまで入れられてしまったのだ。同情してしまう。
・・・好ましい女の子・・・
何度か出てきたこのワード。ソンジュンが自ら出したワードながら、毎回引っかかる。誰にとって好ましい?俺もユニさんはかわいらしい女性だと思うが、毎回出て来る主語は、先生だ。先生が好ましく思っている女の子・・・。
と思っていると、チクチクと首筋に嫌な感触を覚えた。片手で押さえる。だが、違う、と分かる。これは体に何かあるわけじゃない。視線だ。視線を感じてるんだ。
そう思ってソンジュンはそっと首を動かした。首筋に片手を当てているついでにストレッチのように首を回すふりをして。入店したときと配置は代わっていない。客の出入りはなかったはずだ。狭い店。すぐに人の流れは把握できる。入って一番奥のテーブル席がソンジュンの真後ろだ。誰が座っていたか。知っている人じゃない。確か男女。夫婦・・・いや夫婦じゃないかもしれないが夫婦に見える年齢層の男女だった。大声でしゃべり過ぎたからか。いや、それならアジュマが注意されるに決まっている、誰よりも大声でしゃべり笑っていた。最初は視線など感じなかったはずだ。首筋に感じた違和感はさっきから、何の話をしてからだ・・・?
引っ越し屋というワードが出た後か?