こちら月ウサギ配送サービス~夜逃げ承ります~ その28 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 水曜日の会議は詰まらなかった。週間報告、月間の利益見込み、月後半の課題、決まった議題が淡々と進み、その資料を各々のタブレットやPCで見ながらやり過ごす一時間。ソンジュンはその前に、研修で不在だった間の数字の動きを確認するのに午前中を費やしたが。経費が多いのが気になるが、まだその明細まで見れていないから意見すらいえなかった。

 

 おとといの夕食を思い出す。ジェシンが連れて行ってくれたのは徒歩で数分の食堂だった。ソンジュンが入った事のないタイプの店。まあソンジュンは飲み歩きに誘い誘われる友人も彼女もいないので、外食自体昼食しかしないことが多い。大学時代はアメリカで寮生活。それなりに外に出ることもあったが、学業に忙しかったから本当に時に、という感じ。高校生までの同級生とは別に深く関りがないから連絡を取り合っている人もいない。ヨンハぐらいなものだ、しょっちゅうソンジュンを昼食に連れ出すのは。

 

 初めて入ったと言っていい食堂は、材料があれば何でも出す、でも主人が作れなければ作ってくれない、そんな店だった。ジェシンの注文は簡単だった。腹減った、アジョシ、うまいもんくれ。あと酒。おい、イ・ソンジュン、このあと運転するか?しねえな。じゃあコップも三人分くれ。なんだよアジュマ休みなのか、え、子供が熱出した?いいよいいよ、食器は全部自分で持っていく、ほらユニ、適当に揃えてくれ、俺は酒運ぶからよ、イ・ソンジュン、ぼうっとしてねえで取り皿持っていけ。言われて立っていくと、周りの客も似たようなことをしていた。ちょうど出ようとしていた客は、使った皿やらコップを厨房まで片付けていて驚いた。こんなの店じゃないじゃないか。でもちゃんと皆支払いも済ませていく。主人のアジョシも、礼は言うが別にへりくだりすぎることもなく、手伝った分端数は負けてやっているだけのようだった。

 

 人手が少ないわりに、すぐに食い物はでてきた。鍋にたくさん作っているのだろう、トックや山菜の炒め物などの皿。ユニちゃんがいるからね、と出してきたのは参鶏湯の小鍋。ユニは嬉しそうにドン、と入っていた鶏肉を箸とスプーンで器用に割き、皆の取り皿に分けて来る。全部のテーブルの上にある小さなコンロに小さな鉄板が置かれ、しっかりとたれの絡まったカルビやハラミ、ニンニクの芽やインゲン、蒸かしたジャガイモなどが皿に乗ってやってくる。それを、焼酎を瓶から直接飲みながらジェシンが次々に鉄板に載せていった。

 

 別に何のテーマもない雑談が楽しかった。共通の話題はヨンハのことしかないと思っていたが、年代としては同じなのだから、時代感覚は一緒だ。留学中の話をジェシンもユニも興味深そうに聞いてくれたし、韓国内での学生経験がないソンジュンも、ジェシンの学生時代の話が面白く感じた。特にユニの女子大生としての話は未開の地の話を聞いているようで、自分の同年代の女性への興味のなさを今更実感してしまったものだ。

 

 「キャリア志向は強いんです。みんな大手企業に就職したがるの。だから就職活動の時期になったら、知っている会社名が飛び交うわ。叔父さんに伝手があるとか、親戚の誰誰が取引先だから縁故を貰うとか、そんな話を得意そうにする子もいて。」

 

 「お前は縁故は皆無だったもんな。」

 

 「だって。父は亡くなってたし、いても中学教師だから企業の縁故なんてないし。母も近所で働いている人だから、伝手なんかないの分かってたもん。だから教師を目指したんじゃない。」

 

 国内は買い手市場だ。有名大学を出たからと言って、就職がすんなりいくことはない。失業率は過去最高を記録し続けている。

 

 「教師・・・から弁護士事務所に鞍替えしたんですか?」

 

 思わず聞いたソンジュンに、ユニは明るくいいえ、と笑った。

 

 「鞍替えというより、勤めてた幼稚園が倒産したんですよ。その時の残務処理に先生の師匠の大先生が来たんです。私は独身だし、弟の学費も出してあげたいし、でもすぐには就職先なんかないだろうし、って悩んでたら、暫く事務員してくれないかって誘ってくれて。」

 

 「大先生、就職先も斡旋できるところを紹介してたしな。」

 

 そんな昔話を、ソンジュンはぼんやりと会議中に頭の中でなぞっていた。

 

 

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