㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
午後10時45分、トラックは路地から出発した。大きなトラックではない。しかし幌ではなく、しっかりと箱型の荷台になっている。『ウサギ配送サービス』とは違い、ロゴは描かれていない。まっさらの無地。
「ユニさん・・・申し訳ない・・・。」
ソンジュンは運転席の隣に座り、小さくなってユニに謝った。運転手はドヒャン、助手席窓側にはジェシン。そしてシフトレバーに膝が当たらないように長い足を縮こまらせて真ん中にソンジュン。あぶれたユニは、座席の後ろにある荷物置きのようなスペースにちょんと正座して笑っている。
「何だか私の方がゆったり座れてるわ!」
「当たり前だ・・・こんな大男三人で並んでたら、広い席でも狭く感じるに決まってるだろ。」
ソンジュンが申し訳なさに首を縮めていると、
「俺はお前さん方みたいに大きくないぞ!」
と軽やかに運転しながらドヒャンが笑う。
「親父さんはよ・・・横幅は俺たちよりとるだろうが。」
「がはは!そうだったそうだった!家内によ、酒を控えたらもうちょっとその腹がどうにかなるんじゃないの、なんて言われてるんだが、仕事終わりの一杯を取り上げられたくないよな~。」
「奥様は体のことをご心配なのよ、アジョシ。」
ソンジュンは何も言えない。軽口に口を挟めるほどの親しさはまだないからだ。ただでも少々人付き合いに難があるのに、いきなりのこの狭い空間はきつい。
ただ、ヨンハといるときの気楽さと同じ空気は感じていた。
ヨンハは、留学先の大学も学科も同じ先輩だった。同郷という事もあり、寮の部屋が一緒になったのだが、他人と同部屋というだけで、ソンジュンは気分が最悪だった。だが、ヨンハは良くも悪くもソンジュンに会話を求める男ではなかった。
勝手にしゃべるのだ。そして答えを求めない。会話を強要しないのだ。こういえば、うるさい人だという印象しかないのだろうが、ちょっと違う。ソンジュンが学業で忙しい時、考え事をしているときなどは、思い返せば邪魔をしてきたことなどなかった。勝手なようでよく同室生であるソンジュンのことを慮ってくれていたように思う。それを感じたからこそ、ヨンハが院を卒業するまでの四年の同室生としての付き合いの間で、親密な、先輩後輩というより友人としての絆が出来た。そんな相手は初めてだったから、彼の父親が会長である財閥グループ企業に就職することに躊躇はなかった。
ジェシンはおしゃべりではない。どちらかと言えば不愛想な印象がある。しかし、流石ヨンハとの友人関係が長いだけあり、何処か似ているのだ。人に対する距離の取り方とか、慮り方、とか。相手にこうあるべきだと強要しない、個人を尊重する立ち位置をしっかり持っているところが。
だから今だって、ユニを荷物置き場に追いやり、年上の二人に狭い思いをさせているからと体を縮こまらせて入るが、ポンポンと飛び交う会話の中で自分がないがしろにされているとは全く感じない。ドヒャンの奥さんなど知らない人だし、ドヒャンが仕事終わりの一杯が好きだなんて初めて知った。大体において今日初めましての人だ。それでも、彼らが話している相手の中に、必ず自分も入っているのだろうな、と感じさせる温かさがあることに、ソンジュンはほっとしていた。
自分はこの人たちに嫌われたくないのだ、と分かった瞬間だった。
トラックは賑やかにぐんぐんと走る。決してスピードは速くない。けれど時間が時間であるからか、渋滞などにはまることなくスムースに移動が出来た。移動予定の時間通り、30分で着き、有料駐車場の大型車のスペースにトラックは静かに駐車した。
ジェシンが地図を広げる。地理は事務所で頭に入れてきた。だが、再確認のためと、絶対に確認するスポット、それから切り上げて裏口に回る時刻をもう一度復唱した。
「スマホはもったな。何かあればすぐに連絡しろ。音は出すな、バイブにしとけ。裏口には徒歩で集合。ユニと親父さんはトラックで乗り付けてくれ。」
ソンジュンはジェシンと共にトラックから飛び降りた。2ブロック先にそびえる高層マンションが今日の仕事場だ。
ポケットのスマホを触りながら、ソンジュンはジェシンと共に1ブロックを一緒に歩き、その角から二手に分かれた。