恋人よ その64 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 元通りに働き始めてひと月ほど、ジェシンはヨンハの会社を訪問していた。携わっていたハ・インスの父親の会社の案件を途中で法務部に代わってもらったようなものだったから、挨拶に来たのだ。イ所長は最後まで関わったから全く手放したわけではなかったが、事務的なことは全部させてしまった。一応ヨンハにも行くことを知らせて置いたら、挨拶中の法務部へ秘書(この日はユンシクではなかった)をよこして、今、対面でコーヒーを飲んでいる。

 

 インスの父親の会社は、倒産こそはしなかったが、あんなに強引に買収して膨らませ続けた小規模の企業をあちこちに切り売りして、本体もかなり資本を減らした状態で残ることとなった。一応株式上場していたのだが、撤退し、株主だった縁者たちから返却させた資本をもとにして一からの出直しとなったと聞いた。

 

 「それでも銀行は融資したんだろ。」

 

 会長兼社長だった父親は逮捕され職を辞し、放漫経営と言われても仕方がないほど親族で固めた経営陣は、背任罪、脱税などで起訴されて同じようにその席から追われた。残ったのは若い故にまだ手を染めていなかったインスとその妹だけだ。インスはまだ仕事を先頭切ってしていたため良かったが、妹は本当に名ばかりの役員で、出勤したことすらなかったというのだから、これもまた席は取り上げられた。経営刷新会議で紛糾はしたらしいが、インスの仕事ぶりや、実際これから矢面に立たねばならない立場となった会社の一員としての責任を負うのはだれか、という話になったときに、外部から経営を任せる人を雇うのも手ではあるが、それはそれでも今まで培ってきた会社のいい部分も潰されてしまう可能性があると古参の社員の意見もあり、インスが社長としてやっていくことになった。勿論オブザーバーは着ける。若すぎるのと、経験不足、そしてやはり評価が地に落ちた企業として必要な措置だろう。

 

 「オブザーバーは確か弁護士と会計士だったよな。そんなに金融業界に顔の効く人たちなのか?」

 

 弁護士の方は調べれば多少どんな人物か分かるか、とこちらもまだ業界では若手のジェシンが首をかしげると、目の前に優雅に座るヨンハが意味ありげにほほ笑んだ。

 

 「・・・お前か・・・?」

 

 「正確にはお・や・じ。」

 

 とヨンハは今度は大きな動作で笑った。

 

 「俺がそんな大層な力あるわけないだろ!親のコネで地位を貰ってるってのはあいつと一緒なんだよ。銀行からの信用なんてないない!」

 

 「それはわかるけどよ・・・。」

 

 「分かってもらえて、嬉しく・・・ない!」

 

 そんなことを言いながらヨンハは笑っている。

 

 「それでも、親父さんからすれば、別に助ける必要なかった相手だろ。一応息子を困らせようとした相手だぜ。」

 

 「あいつの親父はな!まあ・・・経営方針なんかは真逆だろうけどさ。今回インスは絡んでいないし、あいつがどんな気持ちで仕事に勤しんでるのか知らないけど、力をつけようと頑張っている若手後継者って評価は別に大げさじゃないものだったからさ。」

 

 「それだけか?」

 

 「まあ、それもあるし・・・あと、これは親父の信念なんだけど・・・失業者を出さない、出したくない、ってとこかな~。」

 

 企業が倒産する、もしくは身売りすると始まるのが人員整理だ。倒産はもれなく皆失業だ。

 

 「そんな信念を持っているとは知らなかったな、どっかでしゃべっておられたっけ。」

 

 「経済誌のインタビューとかではしゃべったこともあるかもね。別に経営方針に載せてるわけでもないし、そんなこと聞かれることもないだろうけど・・・親父はさ、国がものすごく貧しい時代を知ってるから、稼ぐ手段を持っていることの大切さが身に染みてる、ってよく言うよ。金を稼ぐ手段を取り上げちゃいけないって。簡単に雇って簡単に解雇するなんてダメだ、って。だからうちの会社、入るのは凄く審査が厳しいの知ってるだろ。その代わり、離職率は低いはず。沢山雇えばいいだろうけど、失敗や能力不足、あと、勤労意欲のない怠けものを雇っては解雇するなんてことをするなら、適応した職業につかせてちゃんと稼がせる方がいいって言うんだよ。で、あいつの会社のことだけど、やっぱり一つ企業がつぶれたらそれだけ仕事をなくす人間が出るってことだろ。買収もさ、方法として在ったんだろうけど、うちあいつの所と似たような子会社もうあるし。ライバルっちゃライバルなんだろうけど、競争力は必要だ、なんて格好つけてたからさ。若者にエールを送った気でいるんじゃないのかな。」

 

 

 

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