㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「とにかく・・・放してやってくれないか。」
ジェシンは穏やかに、そう、出来るだけ穏やかに言った。これが相手が男ならぶっ飛ばしていたところだった。ちょうど占い師の話をしていたところだったから、ユニがオーラ云々を言われた話を思い出していた。おかげでいきなりのことでも咄嗟に納得はできたのだ。ただ、納得はできても勝手にユニの腕をつかむなど、ジェシンには相手が女性と言っても許しがたい事だった。ユニが驚いて怯えてしまったのだから、それは罪なのだ。
ジェシンが占い師の腕をつかむまでもなく、彼女はユニの腕を解放した。ジェシンは穏やかに言ったつもりだったが、かなり低い、地を這うような声だったらしい、とは後でユニに聞いた。サヨンてば、怖い声だったんだから、と。
「あ・・・ごめんなさい・・・つい我を忘れて・・・ただ、あまりにもあなた方の周りが輝いていたから・・・。」
謝った割には、占い師は軽快にしゃべりだした。というより言いたくて仕方がないとでもいう感じだった。
「あの時の占い師さん。」
「そうです。覚えていらした?私、チョソンと名乗ってます。占星術の占いが本業なんだけれど、実は・・・。」
そう言いながら、は、と口を閉ざした。ジェシンも我に返ってみると、何だか視線を感じる。それはそうだろう。この人通りの多い街中だ。喧嘩か、トラブルか、などという囁き声も通りすがりに放たれていることに気づいた。
「・・・ごめんなさい。でもちょっとお話しできないかしら。あの・・・騙すなんてことしないから、ビルの玄関にでも入りましょう・・・。」
控えめなようで有無を言わせない強引さを彼女は見せた。ジェシンも、立ち止まってまでこちらを見ている人がいるのが嫌で、とりあえず一旦隠れてしまえ、と思い、ユニの手を握って占い師のいざなうビルの入り口に滑り込んだ。占い師チョソンは、管理室の窓越しに何か言って、こちらを使わせてもらえます、とラタンの衝立のある通路の奥を指した。覗き込むと、そこは休憩室のようになっていて、小さなテーブルと丸椅子が数個並んでいた。
「管理人さんたちの喫煙所なんです。ごめんなさい、たばこ臭くて。」
「あんたも吸うんじゃないのか?」
ジェシンは、吸い殻がいくつも重なっている灰皿から遠ざけてユニを座らせながら言った。ジェシンがチョソンの喫煙を疑ったのには根拠がある。彼女から染みついた香りがするのだ。嫌なものではないが、香水ではない、確実に燻ったものの香りだった。
「私は吸わないわ。でも、お香を焚くの。だからお香の香りが染みついてるのね。」
そう言いながらチョソンはマスクをとった。
「ごめんなさい。ちょっと飲み物でも買いに行こうと思ってマスクをしていたわ。」
「前にお会いしたときは、マスクじゃなくって布の覆いみたいなの・・・アラブの女の人がするみたいな顔の隠し方だったような・・・。」
「仕事中はそうなのよ。雰囲気出るでしょ。小道具よ。ただ、顔を晒しちゃったら神秘性が薄れるから、外出時はマスクするの。」
ふふ、と笑う占い師チョソンは、意外なほど若い女性だった。ジェシンより少し上だろうか。
「お綺麗なのに、お顔見せないなんてもったいない。」
ユニが無邪気に言うと、チョソンは笑う。
「あなたこそかわいらしいわ。この間もさっきも、あなたのオーラに惑わされてしっかりお顔を見なかったのよ。素敵な彼氏ね。デートの邪魔してごめんなさい。」
「あ、あ・・・やだ、彼氏、そう彼氏?彼氏。えっと・・・恋人の方がいいです・・・。」
ユニのうろたえた反論に、チョソンはきょとんとした後、口をあけて笑った。
「まあ!失礼したわ。彼氏じゃ軽いのね。ごめんなさい・・・。やだ、いきなりあてられちゃったわ!」
ジェシンも顔が熱くなった。こんなところで爆弾落とすなよ、と言いたい。
「とにかく、興奮してご迷惑をかけたわ。お時間はいい?少しだけお話をしたいんです。お邪魔して申し訳ないんですけど、私、このお嬢さんのオーラが忘れられなくて・・・そうしたら今日、パワーアップしてるじゃない。その理由が恋人さんと見たわ。」
そしてチョソンという占い師は、語りだした。