恋人よ その22 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 1週間後、ジェシンとユニは、懐かしい成均館大学の前にいた。

 

 とは言っても今日は大学に用事があるわけではない。かつて通っていた大学の正門から大学の外周を眺めるような形で歩き、結構距離のある敷地の端に正門はあった。そこには蕩平碑がある。英祖と諱される王が建てたものだ。家臣たちの派閥争いをなくすために建てられたものらしいが、結局は何も解決せずに李朝は終わったと言われている。

 

 「・・・らしい・・・。」

 

 「そうだったわね、確か・・・。」

 

 二人とも国史は専攻していないので、細かく覚えていない。大まかな時代変遷と有名な過去の偉人たちの名が精いっぱいだ。

 

 一歩中に入ると、古めかしい建物が並ぶ。長屋のような建物の端から中庭に入り込むと、そこには大成殿と呼ばれる立派な建物があった。

 

 ふうん、という感じで二人は通り過ぎた。古いなあ、立派だなあ、年か感じなかったのだ。その大成殿を回り込んで裏に行こうとしたとき、ジェシンはぞくりとした感触が背中に走って、ふと目線を動かした。

 

 敷地の端にある、周囲に比べたら小さいお堂のような建物。それはパンフレットによると『守撲庁』という建物だったらしい。と分かった瞬間、ジェシンの腹に鋭い痛みが走った。

 

 一瞬押さえる。中じゃねえ、とすぐに分かった。表面だ皮膚だ、皮膚が引き裂かれた。だが、別に誰かに襲われたわけでも、何かの罠に引っかかって負傷したわけでもない。当然服は破れていないし血

も出ていない。周囲に不審者もいなかった。数人の見学者がいただけで。

 

 「ど・・・どうしたのサヨン・・・。」

 

 ユニが様子のかわったジェシンを心配して覗き込んでくる。いや、大丈夫だ、と言っていると、すうっと痛みはなくなった。改めて服の上からさすってみても、何の変化が体に起こっているわけではなかった。

 

 「いや・・・ちょっと腹にけがをしたみたいな痛みが走ったんだが、もう何も感じない。気のせいだろ・・・。」

 

 そう言って頭をなでてやると、本当に、と覗き込むことを辞めない。

 

 「私、どこも痛くないけれど、ここ、あんまり好きな感じがしない。怖い・・・。」

 

 そう言ってユニはジェシンに寄り添った。確かにジェシンも背中がざわ、としたような気がしたのだ。長居するのはあまり縁起が良くなさそうだ、とユニの肩を抱いて先に進んだ。

 

 「わあ!」

 

 大きな銀杏の木が、今は黄緑色の若葉を風に揺らしている。樹齢何年なのだろう、と思うほどに、背も高く、幹回りも立派な樹だった。

 

 「の・・・登れるかしら・・・。」

 

 ぶは、とジェシンは噴き出した。

 

 「ユニ、幼稚園の担任の子どもたちと精神年齢が一緒になったか?」

 

 「だって!何だか上ったら気持ちよさそうじゃない?」

 

 確かに、とジェシンは樹を見上げた。ちょうど目の上あたりが二股に分かれている。その上は適度に太い枝が枝分かれしていて、確かに上りやすそうな形状だったし、登ってみたら。

 

 「昔だったら・・・景色が良く見えたんだろうな。」

 

 とぽつり、と声に出してしまった。大学というのはそこそこ高台にあることが多い。成均館大学も多分に漏れず、少し丘陵になっている。このかつての儒学校の遺構は、残ったものを移築している面もあるから昔の規模ではないだろうが、この木は根をしっかり張り、ここに居続けているだろう。この木に登り、見下ろした先にはおそらくかつての首都の街並みがあったに違いない。成均館は王宮に近く、矢張り国の中心地というのはその王宮を中心に広がっているものだから。

 

 「若者が集まってたんだ。この木に登った奴もいただろうな。」

 

 「うん。私だったら上る!」

 

 「ユニはそこにだって手が届かねえだろうが。」

 

 「誰か友達に押し上げてもらうもん!それか、引っ張ってもらうもん!」

 

 「そんなにしても上りてえのかよ・・・。」

 

 でも俺とユニなら、と夢想する。勢いをつけたらあの二股ぐらいまで足を使ってよじ登れる。そこから下で待つユニに手を伸ばそう。引っ張り上げたユニの尻を押してもう少し上へ。太い枝に足をかけ、幹に背を預け、そしてユニの安全のために、しっかりと腰を抱いておいてやるんだ。眺め下ろした景色はどんなのだったろう。儒生だったとしたら、その景色に希望を抱いたのか、それとも何かを決するほどがっかりしたのか。それでも二人で見ていたら、絶望はしなかっただろう。一緒に何かできるときっと思ったはずだから。

 

 「まあ、この木は上っちゃダメだろうな。」

 

 「わ・・・分かってるもん!」

 

 それでもどこか懐かしい葉の揺れる音が、二人を誘っている気がした。

 

 

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