恋人よ その20 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「君って歴史が好きだったのかい?それとも自分の先祖の身分がいいことがうれしいのかな?」

 

 少し棘ある言い方に聞こえて、ジェシンは顔を上げた。所長はいつもと変わらない明るい笑顔を浮かべて入るが、用心深くジェシンの様子をうかがっているようにも見えた。

 

 「いや、どっちも違いますね。ただ、イ・ソンジュンが家系図を見たときに、俺と同じ名前の先祖が二人もいることを指摘したんですよ。だから俺の名前と同じ人がその頃の王に仕えてたんだろう、と思ったんですよね。」

 

 「同じ名前?それは珍しい。じゃあ、君で三代同じ名前が付けられているんだ?」

 

 「代々、本来なら漢字で『信』という字の音を使った名前を付けていたようですけど、親父と祖父は違うんですよね。親父はそれこそ我が家にある古い本とか書類なんかに興味がない人で、子供の名前を付けるために先祖の名前なんか参考にしなかったと思うんですが、兄と俺には『信』という漢字をあてることができる名をつけてるんで不思議なんですよね・・・。」

 

 ジェシンも自分の名が家系図に当てはめれば三人目の『ジェシン』になることが分かり、中国語では自分の名と兄の名がどう漢字に変換されるのかスマホで検索してみたのだ。すると、兄の名は「寧信」または「龍信」、自分の名は「在信」と見事に変換されてしまった。兄はそれでも二通りの例が出てきたが、ジェシンに関しては一つ。それも家系図にある字そのままだった。

 

 という事をつらつらと説明すると、所長は感心して聞き、そしていつもの本当に屈託のない笑顔に戻った。だから聞いてみた。何か引っかかってましたか、と。

 

 「鋭いねえ・・・いや、悪い悪い。俺のトラウマなんだよ。何しろね、世の中っていうか国民性なのか、権威ってものが好きだろ~・・・。」

 

 所長はもう数少ない李朝の王族の末裔だが、現代に至ってはそんな身分は関係はない。だが、それを利用しようとする人は絶えずいたのだという。後援者として選挙に利用しようと声を掛けて来たり、そういう一族の誇りをもう一度、と妙な団体に囲い込まれそうになったり、別に宣伝していなくてもどこからか情報が洩れて、学生時代に血筋がいい人と付き合いたい、という女子までいたそうだ。

 

 「もうめんどくさくてさ・・・王族の血が何代前に混じったとか、由緒正しい両班の一家だとかさ、僕の弁護士活動に関係ないわけ。だからちょっと先祖を探ってる君に用心しちゃったんだけど、そうかあ・・・おんなじ名前があったら、そりゃ気になるよなあ。」

 

 「それだけなんですけどね。大体の年代しかわからないし、それもあっているかわからないし。そこまで熱心に調べる気もないんですけど、気にならないわけじゃないんですよ、俺も多少は有名どころの王様の名前を知っていますからね。」

 

 「ドラマにもなってるしね!まあ、親父に聞いとくよ。時代によってはそのときの主な家臣の名前なんかがはっきりわかるような資料もあるみたいだしね。」

 

 「本当についでの時でいいんで。別に知ったからと言って何するわけでもないんですから。」

 

 「了解了解~!」

 

 

 ジェシンはソンジュンのように歴史に関して調査する手段を持たないし、日々の仕事もある。所長のように、親に頼むこともできないしやる気もない。父だって忙しい人なのだし、大体あまり興味を持たない分野だ。それに。

 

 少し怖い思いもしている。ユニや自分の見る夢や既視感のストーリーが増幅したのだ。何か一つ引っ掛かりを見つけると、それを合図にしたかのように、夢の中の映像が進んだ。物語性を持ってしまった。その上、ユニはユニを守るオーラがどうたらこうたらと占い師に指摘されてしまった。それこそ現実主義のジェシンはオーラや霊的なものは信じていないが、けれどこの世に説明できないことはあると分かっていて、だからこそまた説明できないことが増えてしまって困っているのが現状だ。

 

 家系図で見つけた自分と同じ名前。あの家系図が偽物でない限り、その名前は過去にあった事実であり、だからこそ確かめたくなったのだ。

 

 

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