恋人よ その11 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンはそれから、仕事を終え帰宅すると、家の中に一部屋ある書庫に出入りするようになった。ここは読書家だったというジェシンの祖父が残した本類を元々の古い家の蔵に保存してあったもので、ジェシンの父の代に立て直したとき、蔵を潰す代わりに書庫を作ったものらしい。ジェシンの父は娯楽や趣味で本を読む人ではないが、祖父が大事にしていた物の中には、それなりに年代物もあるとは知っていたので、大事にしておこうとは思っていたらしかった。

 

 「系図なんかは金庫の中だ。」

 

 書庫を見ていいですか、と一応父に許可を求めたジェシンに、父親は別に構わん、と簡単に許しを与えた。

 

 「鍵も書けているところじゃあるまいし、勝手に見ればいい・・・売るつもりじゃないだろうな、流石にそれは許さんぞ、金に困っているのか?」

 

 「金じゃないですよ・・・。」

 

 と父親を遮ると、それ以上の理由など聞かずに、なら勝手にしろ、と言った後で、そう言えば、と言い出したのだ。

 

 「鍵で思い出したが、鍵が必要な棚が一つある・・・古い金庫なんだが。」

 

 「金庫?それこそ古い貨幣でも入ってますか?」

 

 「いや、お前の爺さんに一度だけ見せてもらったが、家系図と何やら古い巻物だった。家系図はかなり長くて、爺さんの代からは新しい紙に書かなければならない、と儂の名まで書かれているところまでは見たが、続きをかいていないな・・・ジェシン、ついでだから母さんとヨンシンとお前の名前を書いておいてくれ。」

 

 「父さん、俺の字、知ってるでしょう・・・PCで印字しますか・・・。」

 

 「そんな味気ない事をするな。」

 

 「自分が面倒だからって・・・。」

 

 「ならヨンシンに頼め。儂は忙しい。」

 

 そう言いながら立ち上がり、書斎に向かった父の後をついて行くと、重厚な机の引き出しの奥から鍵を出してきた。今は見るの珍しいだろう、鉄製のレトロな作りの鍵だった。

 

 好奇心は刺激されたが、とりあえず書庫には何があるのだろう、と二、三回は書棚を調べて終わった。次の日には仕事があるし、土日は弁輿事務所に行く。ジェシンには割とまとまって一日休み、という日はほとんどないのだ。余りじっくりと調査はできない。

 

 「まあ・・・見てみるか・・・。」

 

 めぼしいもの、というより、漢字で書かれているような本当の古書はまず読めなかった。ハングルで書かれてあるものも、古めかしい表現のものが多かったし、パラパラとめくっては閉じて日数は過ぎた後のことだった。

 

 父から預かった鍵を差し込む。その金庫は隠されている風もなく、壁に作られた書棚の一番奥の一番下にすっぽりと埋め込まれていた。おそらく最下段はこの金庫の高さに合わせて作られたのだろう、というほど隙間なくすっぽりと。

 

 がっちゃん、と馬鹿みたいに大きな音がして、鍵が開いたのが分かった。一応全部鉄製らしきその金庫はところどころに錆が浮いていて、年代を感じさせる。扉はざりざりと嫌な音を立てた。さび付いてんな、と開かない予感を感じさせたが、ぐ、と力を入れるとわりに素直に開いた。

 

 中から、鉄の匂いと共に、何だかひんやりした空気が流れだした気がして、ジェシンは少し身震いし、それから何故だか掌をズボンで何度かこすって拭いてから、中に手を突っ込んだ。

 

 父の行った通り、巻物が二巻。それから茶封筒が一つ。

 

 茶封筒を開けてみると、父の言っていた系図の続きだった。祖父母からつながった線から枝分かれして、父と父の妹の名が記されている。そこから下は真っ白、空白だった。

 

 「俺らが生まれたときに書き足しとけよ・・・。」

 

 ジェシンはその紙を封筒にしまい、先に金庫に突っ込んだ。それから書庫の床にどっかりと座ると、巻物の一つ目をゆっくりと開いてみた。

 

 巻物はおそらく、祖父が表装し直しているのだろうと予想はついた。しっかりした目の詰まった紙の色は臙脂。どこも傷んでいないし紙自体に古さを感じなかった。それでも、と慎重に開く。湿気でくっついているかもしれないからだ。

 

 二巻きほど開くと薄茶けた紙が見えた。端の方は少し欠けているように見える。動かないところを見ると張り付けてはいるようで、ジェシンは更にゆっくりと開いた。

 

 開ききって呆然とした。

 

 そこに在ったのは、約28代、300年にも及ぶ、ムン家の歴史だった。

 

 

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