㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ジェシンがようやく自分の見るデジャブについて動こうかと思ったのは、その秋のことだった。ユニが無事就職し、新人幼稚園教諭として奮闘しているころ。映像を見始めてから随分たったものだと人には言われそうだが、初冬限定のシーズンものなのだから仕方がない。
しかしユニは二種類の夢を見ていたわけで、ジェシンもとうとう数で言えばそれに追いついてしまった。
「季節フルコンボだな・・・。」
と呟くジェシンをユニは笑えない。この初春も、初夏も、ちゃんと見てしまっているのだから、同じ夢を。
「夏の夢は好きなの、すごく楽しそうなんだもの。私、男の子だったらこんな風にサヨンと一緒にいられるんだ、って思ったら、笑いながら目が覚めるのよ。」
などと可愛いことを言うユニの頭を撫でて、ジェシンは頬杖をついた。今日は日曜日。イ所長の事務所は臨時休業だ。所長が腹を壊したのだ。別にジェシンだけで出来る書類仕事もあるが、所長はあっさりと休みにしよう、と笑った。事務所にいたら電話が鳴ればとってしまうし、とったら仕事が増える。増えるのはいいことだけれど、結局後日連絡し直さなければならない。絶対にうちに依頼をしたいなら、また連絡が来るさ、二度手間だもんね、うわ、いて、トイレ行くからまたね、という事だそうだ。
ジェシンがこの夏の終わり・・・まだ暑いが空は高くなり、風に涼しさを感じるようになったこの季節に観たのは、ユニと同じように夢でのことだった。
何しろ所長が出てきたのだから、最終的にジェシンは脂汗をかいて飛び起きた。所長は王様だった。時代劇でよく見る李氏朝鮮時代の衣服よりもう少し粗末で、というよりは常に武装しているような感じだった。所長は前王に当たる自分の父親を引きずり下ろし、自分が王の座に就いていた。ジェシンは所長らしきその王を支持した側だった。つまり勝者側なのだ。だが、まだ内乱状態は残っており、反撃の機会をうかがう者たちに、ジェシンの屋敷が襲われて、ジェシンは自分の妻子を王宮に放り込みに来ていた。
ー・・・我が妻子を置いておいてください。すぐに蹴散らして戻ってまいります・・・ー
ー・・・妻子どころか使用人まで連れて来るのがお前の良いところだのう・・・任せよ、存分に暴れて参れ、余も手伝うか?・・・ー
ー・・・あ奴は王様というより俺を恨んでいます。ずっとそうだった。俺がけりをつけねばならない相手です・・・ー
ー・・・行って参れ・・・あ奴も優秀な若者故惜しいが・・・父親があれではな、まるで清の者のようにふるまう者が国を作れるわけがないのだ、切り捨てるしかない・・・ー
ー・・・では・・・ユニ・・・ー
そのときはじめてジェシンの目は妻の顔を見た。妻は当然のごとく、ユニの顔をしていたし、声もユニのものだった。
ー・・・私が王様をお守りいたしますから、ご心配などなさらず、ご存分に・・・ー
哄笑がひびく中、夢は終わるのだ。ジェシンも笑っている。自分の笑い声と、何処かで現在の自分が『所長じゃねえか!』と叫んでいる声で飛び起きるのだ。ここ数日、連続して見た夢。細部に至って全く同じ。
「これで、初春、初夏、初秋、初冬、と揃っちまったってことだよ。」
「そうね。でも、全部・・・時代が違うみたいよね。」
「でも全部に俺とお前がいる。」
「今回は所長さんが出てきたじゃない。」
「あれは、まあ、アクが強いからじゃねえ?」
「失礼だわ。」
ユニが軽やかに笑う。ユニは所長に会った事があるのだ。所長の所での研修兼バイトの後、夕方に待ち合わせしたとき、所長もたまたま同じ方向に何かの集まりで行くと言って車に乗せてくれたのだ。降りてさよならするだけのはずだったのに、所長はわざわざ自分も車から降り、待ち合わせ場所で可愛らしく立っていたユニと握手までしていったのだ。
いやあ、君がジェシン君の噂の彼女だねっ!噂って言ってもジェシン君は何も言わないんだけどね、彼の兄貴が僕と友人でさ、君の存在を僕にバラしてたんだよ~、お会いできて光栄ですよお嬢さん、ジェシン君をビシバシ鍛えて立派な弁護士にするからね、待っててね!
とまくし立てて、さらば、と行ってしまったのだ。ユニはびっくりして、初めましてしか言っていなかった。
とにかく、とジェシンは天井を見た。二人で少しばかりドライブして、郊外のカフェでケーキセットを食べていたところだった。
「ちょっと調べてみるか・・・先祖のことなんか、関係あるのかなあ・・・。」
何しろあまりにも時代をたどっているようなのだから。