恋人よ その5 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ユニは何と二種類のデジャブを見続けていた。そのうち一つはジェシンに出会う前から始まっていたという。

 

 先に見始めていたのは、ジェシンが見ているものの時代よりかなり前と思われる、朝鮮半島がまだ三つ四つの国に分かれていた時代の者ではないかと思われる風俗なのだそうだ。髪型、着物の感じが時代劇で観る、高句麗や百済、伽耶などという国が乱立していた時の物に似ているのだという。

 

 音が聞こえるわけではない、会話の内容も分からない、ただ映像だけが流れ、しかし何が起こっているのか、その夢の中の、おそらく自分だと思われる人物が何を思い声を放っているのかがありありと分かるという。

 

 まるでその場に自分がいて、自分が行動しているかのように。

 

 

 「場面がね、変わるの。始まりは、私が・・・私だと思うの、だって分かるのだもの、見送っているのが・・・。」

 

 ジェシンの白昼夢と同じく、視点は、そう、カメラのレンズの役目をしているのはユニの視線自身なのだという。そしてその追っている。旅立つ・・・そう戦に出陣しようとしている男を見送っているシーンなのだという。

 

 「城壁、というのかしら、そこまで出て、並んで見送っているの。私の周りも見送る人たちでいっぱい。みんな自分の家族を必死に軍列の中に探して叫んで手を振るの・・・私はすぐにサヨンを見つけるのよ、だってサヨンは立派な馬に乗って、誰よりもよく見える格好でやってくるから・・・。」

 

 ジェシンはおそらくその時代のその国の武人、それもおそらく将がつく地位の者。彼はユニの前を馬の足を緩めてゆっくりと通り、その間中ユニを見詰め、そして通り過ぎれば二度と振り向かずに行ってしまうのだ。

 

 そのシーンには続きがあった。

 

 そのまま場面は切り替わるのだという。やはりユニの視点でうつされている映像だという事に変わりはない。ユニの視線の先には佇むジェシン。武人と分かる格好だが、戦いの時ほどのものものしさはない服装で、彼は佇んでいる。その腕の中には赤ん坊。赤ん坊が泣きだした。ユニは傍に駆けていこうとする。けれどそうするとふわりと体が浮き上がる。ユニの視点は切り替わり、上からジェシンと赤ん坊を眺めている自分に気付く。傍に行こうと動けば、重力がないかのように意図しない方へ飛んでしまい近づけない。ジェシンは泣く赤ん坊に頬を寄せ、何かささやく。聞こえない。聞こえないけれど何を言っているか分かる。ユニはそのときにはわかっているのだ。自分はこの世のものではない、と。そしてああ、と声にならない叫びをあげたとき、ジェシンの言葉を受け取りながら場面は閉じていく。母上はもういないのだ、父は母上を守ってやれなかった、許せ、許せ、また来よう、ここに母は眠っている・・・。

 

 「・・・理由はわからないのだけれど、私はそのとき、既に死んでいるんです・・・。」

 

 「その男は・・・俺なのか?」

 

 「・・・うん・・・サヨンに出会った時、何処かであった人だと目が合った瞬間思ったの・・・。そのときは夢のことは・・・本当に時々見るだけだったから忘れていたのだけれど、春になるころに見たときからは、ずっとサヨン・・・。」

 

 ユニはその夢を見るのは春先なのだという。それも一度見るとほぼ一年は見ない。だから記憶がおぼろげだったのだが、ジェシンと大学で出会い、恋人となってから三回過ぎた春は、ジェシンの夢としてはっきりと認識してきているというのだ。

 

 ジェシンが見るのは、おそらく李氏朝鮮時代の風俗に間違いはないのだ。その前の時代のユニとジェシンの物語をユニは見ているというのか。

 

 「それで・・・二種類、と言ったよな。」

 

 「うん。もう一つは、サヨンに出会ってから見るようになったの。でね、やっぱり・・・やっぱり季節は決まっていて・・・。」

 

 それは初夏の美しい青空が広がる季節に見る夢なのだという。ジェシンに出会ったそのすぐ後に見た夢。

 

 ユニはその夢では二人に魂が分かれているのだという。男と女の姉弟なのか兄妹なのか判らないのだが、その二人合わせてユニ一人の魂なのだそうだ。

 

 そしてジェシンは男の方の学友であり、そういう格好・・・

 

 「儒生服、っていうのかしら、多分昔の儒学校の学生ね。」

 

 をしていて、その兄弟に会いに来た女の方のユニとジェシンがお互いを見て立ちすくむ、そんな場面で終わる短い夢なのだという。

 

 二人は目を見合わせた。違う夢だけれどあまりにもあまりにも。

 

 お互いを引き寄せた因果がここにあるのでは、と思わせるほどの鮮やかな記憶のような夢を見る不思議に、戸惑わないはずはないのだから。

 

 

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