㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ジェシンの婚儀に行くころには、相手の令嬢のことを一つだけ聞くことができた。齢13。それだけ。ムン家は小論の中でも群を抜いて勢力のある家だから、相手のパン家の小論の中における力関係の変化の予想に噂の熱は集まっていて、花嫁のことは置き去りだったし、ジェシンが嬉しそうでも何でもないので、余計にそうなっていたように感じて、ソンジュンは少し胸を痛めていた。
ユンシクも同じだったようで、婚儀の宴に赴くとき、二人の不安そうな顔を見てヨンハが笑った。
「大丈夫だって、コロだってもう大人だ。花嫁に恥をかかすようなことはしないさ。」
「別に僕はサヨンが何をするとか思ってないです・・・。」
「そうですよ。」
ユンシクとソンジュンは反論はしたが、何かをする、のではなくて、何もする気がないようなジェシンを見るのが怖かった、というのが正直なところだった。
パン家についてみると、華やかな婚儀の賑わいがあり、他派閥ながら王宮の若手官吏として名を挙げているソンジュンやユンシクは花婿の友人として歓迎されたし、ヨンハはやはり御用商人としての商団の跡取りとして有名故、すぐに奥に通された。そこには、衣装にうずもれた小さな花嫁と、客の挨拶に応えるジェシンの姿があった。
普通に祝いの挨拶をし、案内された席に収まっていると、一段落したのかジェシンがやってきた。少し顔が赤い。祝いの杯を飲まされているのだろう。だがしっかりした足取りで目の前までくると、どすん、と座った。
「いいのか、あっちは放っといて。」
ヨンハが聞くと、親父とあちらの父上が相手してる、とジェシンはユンシクの前の杯を取り上げて乱暴に飲み干した。
「お前らも適当に飲み食いしたら帰れよ。あっちはまだ子供だから、宴も早めに切り上げるように頼んである。もうそろそろ引っ込むだろ。」
「婚儀は花嫁が大変だもんなあ・・・。」
ソンジュンも思い出す。婚儀の日。ユニはそれこそ前の晩体を横たえただけだったのではなかろうか。真夜中から支度が始まり、夜の明けきらない時刻に儀式を行う。顔合わせの後の宴が昼頃から。花婿のソンジュンはいつもより良い衣装を着ただけだったから、何枚は折っているのかわからない衣装にうずもれて着飾られたユニの支度の多さに驚いたものだ。
「もう眠いだろうよ。俺だって昼寝したい。」
「花婿が昼寝しちゃダメでしょ、サヨン。」
「だから酒飲んでんだよ。」
「余計眠たくならないんですか?」
ものすごく気の抜けた話をしているのを、周囲が聞き耳を立てているのが分かる。ジェシンは何も気にしていないかのように立て続けにユンシクに酒を酌させ飲み干し、飲むぐらいしか体を動かす理由がねえだろ、と笑った。
「あいつはあと三日ほどしか実家にいられないんだ。うちに移ってきたら、母上に屋敷のことや何やら教わらなきゃならないってこちらの父上に頭を下げられた。まだ子供だからな。小さすぎて、成均館に来た時のシクを思い出したぐらいだ。」
「僕もうちょっと大きかったと思う。」
「俺からしたらお前はまだちびだ。」
「ひどいよぅ・・・。」
ヨンハが笑いだした。その明るい笑い声に周囲の緊張がゆるむ。やはり皆パン家の令嬢を憐れんでいたのだろう。若い頃の悪評は、官吏になってからはそれほどでもないという評判に落ち着きはしたが、それでも暗行御史での剛腕の噂や、その大きな体、少々雑な動きや服装は、全く昔の噂を払しょくできてはいなかったのだ。
「じゃ、花嫁様はしばらくはムン家で花嫁修業が続くってわけだな!」
「そういうことだ。」
そういうと、ジェシンは酒を飲み干し、その杯をソンジュンにグイっと突き出して持たせた。そこに酒をなみなみと注ぐと、飲むように目で促しながら口を開いた。
「お前の奥方にも会わせてやりたい。まだ字も幼いから恥ずかしいと自分で言っていた。教えてもらえるよう頼んでくれないか。少しずつ大人になれるよう、話し相手になってやってほしい。」
ああ、とソンジュンは吐息をつき、そして酒を飲みほした。先輩は優しい。本当に。ユニをあきらめたのではない。ユニのためにしてやりたいことをし遂げて、次に進んだのだ。本当に、本当に、あなたという人は。優しくて、強い。
「はい。妻に相談して、お会いできる日を作りましょう。妻も友人ができると喜びます。」
杯を返しまた酒を満たす。それを飲み干すジェシンを、誰もが驚きの表情で眺めていた。