㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニの体調を一番において進むソンジュンとトック爺は、三日目に扶安を目前にして一日休息日をとった。
「私は元気なのに・・・。」
と不満げなユニだったが、無理をしているのは分かっていた。まだ膨らんでもいないのに腹を無意識にかばうのは女の本能なのだろうか、ソンジュンがしっかりと腰を固定してやっていても、馬に乗るという慣れない体勢に体はカチカチになっていた。足も休むと決めたその宿の部屋で、無理やりソンジュンに足袋を脱がされて、むくんでいるのを見つけられてしまった。湯を張った盥にしばらく足首まで浸らせた後、否応なく揉まれて、ユニは羞恥で顔を覆っていた。
それでも気持ちよかったのだろう。足の揉み療治(素人ではあるが)だけで体全体に血が巡ったようで、悪阻の症状も手伝い、ユニは強い眠気に負けて眠った。まだ日が中天に昇らないうちの話で、ソンジュンはユニの寝顔を見ながら自分も大きく伸びをし、自分の体をほぐそうと宿の外に出た。
トック爺は気の利く男で、明日通る扶安の街には名の通った医師がいると宿で聞き込み、ユニを診てもらっておこうとソンジュンに提案していた。そこで先に診察の約定をしておこうとひとっ走り扶安に往復してくれているのだ。旅慣れた商人らしく、トック爺は大層足腰の強い男だった。
そう遠くはないので、トック爺はちょうど日がてっぺんに昇るころに戻ってきた。ユニはまだよく寝ていた。やはり疲れはあるのだろう。寝顔を眺めていたソンジュンに、部屋の外から合図をしたトック爺の様子に、ソンジュンはすうっと音もなく立ち上がり部屋を出た。
ソンジュンを誘って宿の外まで出たトック爺。宿の前の道の反対側へわざわざ行き、宿を見上げる形で立った。ソンジュンも黙って傍に行き、同じ向きになって横並びに発つと、トック爺は軽く頭を下げた。
「こんなお話の仕方で失礼とは思うんですが、ちょいと扶安の街で騒ぎがあった事を聞きつけました・・・昨日の話だそうですが。」
「・・・何か争いが起こっているのだろうか?危険ならば避けていった方がいいというのなら・・・。」
「いえ。違うんです。実は・・・。」
トック爺は早朝に宿を出て、慣れた速い足取りで北へ進んだ。本当は定宿のある扶安まで昨夜は進んでも良かったのだが、考えつく無理は絶対にしないと決めていた。ちょっとの無理がテムル様の体に祟ってはならないからだ。成均館時代の可愛らしいユニの儒生姿をよく覚えているトック爺にとって、ユニは娘同然だった。
扶安の街はそこそこ人の多いところだ。入ってすぐ、トック爺は医師の住まいを雑貨を扱う店て聞いた。それなりに大きな街とはいえ、医師は何人もいるわけではない。すんなりと教えてもらった医師の住まいにそれほどかからずにたどり着くと、慌ただしい様子が見受けられたので、お待ちしますんで、と弟子らしき男に声を掛けてしばらく住まいの前で待ったのだ。
「いや、申し訳ない。どなたか病人ですかな?」
そう言って出てきた医師に明るく挨拶したトック爺は、明日の診察を依頼した。両班の奥方などめったに診ないが、と戸惑う医師だったが、旅の安全のために念を押してのものだというと、快く引き受けてくれた。
「今いるけが人は追い出しますしな。広くもない我が診療所で預かるほどのものでもないですし。」
そう言う医師に、
「それはけが人に申し訳ないですねえ。」
とトック爺が応じると、医師は顔をしかめたのだ。
「自業自得ですよ。悪だくみしてそれが発覚し、殴られたんですからね。悪行を行う前で良かったのですよ。」
「悪だくみの時点で発覚したんですかい。それはまた粗漏なたくらみだったんですねえ。」
「何でも、都からこちらに追い出されてきた奴に扇動されて、金欲しさにそ奴が恨んでいる両班のお殿様を襲うつもりだったようなんですよ。ですがね、そのよそ者がね、追い出されてきた先ってのがこの近くの山すそにある寺でしてね、何でも遠縁だそうで。」
医師は診療所の中を振り返りながら肩をすくめて話し出した。