天網 その24 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 トック爺が医師を連れてきたのはジェシンが出ていった次の日。脈診した医師は、ユニの懐妊を断言し、月の物が途絶えた時期や脈の様子、そして悪阻と思しき症状が出始めた時を掛け合わせて、およそ懐妊しておよそ二月、と診断を下した。もっとも医師は産科はそれ専門の医女にも診てもらった方がいい、と体を温める薬湯を置いて行ってくれた。そのときに、前の晩隣県の役所に派遣されていた都からの役人が、これもまた都からきていた隠密の偉い人にひっくくられていった、という噂話を、薬を作りながら話していって、それがジェシンのことだとわかり、ご無事に済んだのだわ、とユニは胸をなでおろした。ユニが居候したせいで何か不手際があっては申し訳なさすぎることになるところだったのだ。

 

 「コロ様はねえ、人のせいで仕事をしくじった、なんてことなさいませんよう。お仕事ぶりは案外ち密になさる方じゃなかったですか?」

 

 とトック爺が気楽そうな声で医師が帰ったあとユニを慰めてくれた。心配していたのはお見通しだったようだ。

 

 「乱暴そうに見えますし、ご自分のことに関しては確かに雑なお方ですけどねえ。なんというか、仕事のツボ、というものを押さえておられる気がします。今回あたしが少し頼まれたお調べもね、大変的を射ていて、裏付けするだけで済みましたよ。一を知って見えないところを確実に推測することがお出来になるんでしょうねえ。世の中の道理・・・まあ悪事に道理も何もありはしませんが、人間ならこうするんだろう、という道理をご存じなんですよ。ご秀才なだけありますって。」

 

 そうか、そうだったかも、とユニはジェシンの官服姿を思い出した。いつも夕刻になったら着崩れていたけれど、重い紙の束を持って、すたすたと王宮を闊歩していたジェシン。あの見た目で仕事の処理も速いのに、記録として残すためには必ず清書が必要な悪筆で、右筆の部署の人たちを困らせていた。くす、と思い出し笑いをしたユニを、トック爺は安心したように眺め、食事と薬、そして体を休めることを穏やかに勧めてくれた。

 

 「体調が良い日が続くようなら、あたしがちゃんと都にお連れしますからねえ。気を大きく持ってゆっくりとしていてください。大事な大事なお体ですからねえ。」

 

 

 

 その頃、ソンジュンは父と共にユン家へと向かっていた。長老は老妻と一緒に湯治に行っていると把握していた。長老の耳には今回の騒ぎは聞かせたくないというのが二人の意見だった。ユン家の長老はソンジュンの父を引き立ててくれたし、ソンジュンの成長も常に喜んでくれていた。イ家と多少は縁戚関係もある上に恩人だから、悲しませたくなかったのだ。

 

 ユン家の現在の当主は、青い顔で二人を迎えた。これまでの経緯はソンジュンの父から先に伝えてはあったのだ。やはりソンジュンを巻き込んだ懐妊騒ぎは当主は知らなかった。本当にあった事なら当主は知るべきだし、イ家に対して責を問える立場だ。なのにユン家の令嬢とその兄は父に告げずにいた。令嬢に関しては何とでも言い訳がつくだろう。人に言えるようなことじゃなかった、恥ずかしかった、などと言えばいい。それさえしなかった。後ろめたいことがあるなど誰にでも想像つくことだ。直前にその後ろめたいことによって当主の怒りを買っているのだから。

 

 「・・・い・・・医師を呼び、昨日診察をさせました・・・妻の実家がいつも呼んでいる老練な医師です・・・我が家に出入りする医師は息子たちもよく存じているので避けました・・・。」

 

 当主の声は震えていた。

 

 「・・・もはや三月を超え、四月近くなるようです・・・勿論、ソンジュン殿がどうしたなどとこちらが言えるようなことではないほど、腹の中の子は育っておりました。」

 

 がばり、と当主はその場に伏せてしまった。その震える肩に向かって、ソンジュンは冷たい声を出した。自分でもぞっとするほど感情が乗らないのが分かった。こんな茶番のために、イ家の人間を二人も動かし、大事な仲間であるヨンハの家の者も動かしたのだ。何よりも、ユニ。ソンジュンのこの世で最も大切な宝である妻が、家から去っていくきっかけを与えたこの家のバカ息子バカ娘に、この手を煩わすこと自体が穢れる気がした。

 

 「ご当主は、ご子息ご令嬢をどうされるおつもりですか。」

 

 自分の声がどこか遠くから聞こえる気がした。

 

 

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