お祭り大好き! その11 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ソンジュンがひとしきり選手仲間と打ち合いをして振り向いたときには、ユニは一人で黙々と打棒を振っていた。球を入れる想定として置いてある板に、何度も球を打ち込んでいる。正しく当たらないと、どんなにきちんとした姿勢で打っていても明後日の方向へ飛んでいくから、時折外れて転がっていった球を小走りで取りに行って忙しそうだ。近くで練習している儒生にからかわれて、難しいんだもん!と言い返しては一緒に笑っている。そしてまた真剣な顔をして板に向き合う。ジェシンがそれこそ手取り足取り教えただけあって、形は大層様になっていた。

 

 非力なのは仕方がない。それは、キム・ユンシクが男だと信じ込んでいたあの手射礼の時、付きっ切りで特訓をしたからよく知っている。最後まで筋力のつかないユンシクの体を不思議に思っていた。確かに線は細く、病がちであったことを理解していても、男の体と程遠い線の細さに心配になったほどだ。掌は弓の弦に擦られて傷だらけになり、あちこちが切れてかわいそうなことになっていたが、強くなるためだと見ないふりをしていた。女人だったと知って分かる。掌は柔らかな皮しかなかったのだと。剣を握ったことも、勿論弓もない。馬の手綱を握りしめてマメが出来たこともなかったのだろう。強い意志のみで辛い鍛錬に耐え結果を出した彼女は賞賛すべきだが、それでもソンジュンには胸の痛みが残る。俺はなんてことを女人に対して課したのだ、と。知らなかったとはいえ、酷なことをさせた自覚は、ユンシクがたとえ男であってもあったのに、ましてや娘だったのだから。

 

 鋭い音がして球は板に飛んでいき、当たった。それほど厚みのある板ではない。ジェシンが同じ姿勢で打ったなら、板はひびが入るか割れるか、そうでなくとも球はもっと近いところまで跳ね返ってくるだろう。ユンシクはすたすたと板の傍まで行き、球を拾っている。跳ね返りが少ないのだ、つまり、打った球は速さはあっても重量感はない。軽いのだ。それでも上達したことがうれしいようで、ユンシクはにこにこと球を持って振り返った。ソンジュンと目が合う。

 

 「ソンジュン!練習終わったの?」

 

 「うん。今さっき。そろそろ練習を終わりにしよう。夕餉前に尊敬閣に行かないと。」

 

 近づきながら言うと、そうだった!とユニは目を見開いた。明日までではないが課題が出ている。打杖の練習もあるし、早めに手を付けておこうとソンジュンと話し合ったばかりだった。

 

 打棒をわきに抱え、帰る姿勢になったユニは傍に来たソンジュンを見上げた。数滴の汗がつう、と顎を伝っている。ユニは気になって自分の頬をそっと触ってみた。べたべたしてる、と指を滑らすと、下瞼のくぼみや鼻の下にも汗が溜まり、自分が汗びっしょりなのが分かる。恥ずかしい、と思った。だから慌てて手拭いを出してぐいぐいと顔を拭った。網巾もしっとりと濡れている。夜の間外していてもいいだろうか、と悩むほど。

 

 「そ・・・ソンジュンは汗をあんまりかかないね・・・。」

 

 しどろもどろに手ぬぐい越しに言うと、そうかな、という返事が返ってきた。

 

 「かいてると思うけど・・・。でも本格的に試合をしたわけじゃないし、いろいろやり方を考えながら動きを確かめるみたいな練習だったからじゃないかな。」

 

 そうなんだ、と頷きながらユニはとりあえず手拭いを懐にねじ込んだ。私はひとところに立ってただ棒を振っていただけなのに。こんなに汗びっしょり。恥ずかしい。私、だんだん娘じゃなくなっていっているみたい。

 

 うつ向いて足を動かした。顔がぽっぽっと火照る。うつむいたら見える殺風景な練習着。と言ってもユニが大層な衣服を持っているわけはなく、普段着用の袖の短いチョゴリとパジ。いつか見た、かつてソンジュンの婚約者になると言われていたハ・インスの妹の華やかな娘姿を思い出す。私はあんな格好などしないまま、娘時代は終わるんだ。今ここに居るための行動だったから、男装して小科を受けたことに後悔はないけれど。ないはずだけれど。

 

 通り過ぎていったユニとソンジュンの後ろ姿を、練習場の近くの木にもたれて詩集を手に持っていたジェシンが、じっと見送っていた。

 

 

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