㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ジェシンとソンジュンはポツンと取り残されていた。ジェシンの父は現場の警察官や鑑識の人たちの働きを見るために署長と一緒に行ってしまったし、犯人三名は所轄署に連れて行かれた。もう一度お医者さんにみせなさいよ~、と先生が能天気に送り出していた。今はユニとユンシクの母親待ちだ。ユンシクが警察の車に乗せてもらって、付き添いの警察官と共に仕事場に直接迎えに行ったし、デリケートな事件なので、とジェシンの父に言われて、思い出したかのように数少ない女性の警察職員を呼び寄せている。多分ジェシンの父が来なかったら、犯人の連行と一緒に、ユニとジェシンも連れて行かれて、警察署で事情聴取となっただろう。
「女の警察官なんているのか・・・?」
「そうですね、いるんですかね?」
ジェシンの独り言にソンジュンも合わせて首を傾げた。二人は結局裏口のある小部屋にいるしかなかった。ユニは診察室の隅にある患者用の寝台で奥さんに付き添われて休んでいるし、診察室は待たせていた患者の診察を再開したため、ジェシン達は邪魔ものだった。
「そうだねえ、見たことないねえ。」
と足元から声が上がってきて、二人は飛び上がりそうになった。床に直接胡坐をかいた大けが親父が、先生が持ってたよ、と革製品を磨くクリームを使ってユニの靴を磨き続けていたのだ。引きずられたときにできた傷にたっぷりつけて、布を使って塗り込んでいく。もう片方は完成しているらしく、ピカピカに光っていた。
「椅子におかけになりますか?」
「いい、いい。田舎の家じゃ、椅子なんかまず家の中にないからさ。床に座る方が尻が落ち着く。」
腰を浮かせたソンジュンにそう言って、親父は手を動かした。
「女の警察官がいるならさっさと連れてきたらいいのにな。何も男ばっかりが警察の厄介になるわけじゃねえんだし。」
「その通りだね。」
と裏口が開いて、ジェシンの父が入ってきた。後ろに署長、警察官数人を従えているが、小部屋に入れはしないし、何よりも親父がびっくりして飛び上がった。
「採用を初めてまだ数年しかたっていないんですよ。ここの所轄には、事務員として二人いるんだが、現場に出ることはほとんどないのだそうです。こういう女性が被害者の事件には積極的に働いてもらうべきだと今話していたところなんですよ。」
ぽかんと見上げる親父に向かって説明するジェシンの父だけが中に入った。
「ジェシン。お前の聴取は儂と一緒に署に行ってから行う。こちらの医院に長時間の迷惑はかけられん。」
「ユニさんは?」
「ユニさんとおっしゃるのかな。ユニさんはこちらの先生が治療してくださっているようだしその方が安心だろうから、こちらで場所をお借りしよう。女性警察官同席、保護者・・・ご母堂だね、それからご希望であればこちらの先生も同席していただいたらどうだろうか。未成年の少女だ。それぐらいの気を使うべきだろう。どうかな、署長。」
「おおおっしゃるとおりでございます!」
「彼女の聴取の報告も儂に回してください。」
「承りましたっ!」
「これからこのような対処の仕方が模範になるでしょう。我が国の警察力を上げるために、先駆けとなっていただきたい。」
「光栄でありますっ!」
「それからイ君。」
ジェシンの父はソンジュンに目を向けた。
「君が証言してくれた『札返し』という店については、こちらも目を付けていて調査の最中なのでね。少々時系列に沿った話を整理して証言してもらいたい。お父上の御都合のいい時間にご自宅に警察官を向かわせるし、儂がお伺いしたほうが良ければそうさせてもらう。連絡はつきそうだろうか、お忙しいのは重々承知しているが。」
「家の者に、自宅に戻って母に頼み、直通の電話番号を使うよう言いつけてあります。母が断ることはないと思います。父が電話に出られる状態であれば、もう少しすれば返事を持って戻ってくるかと思います。」
「では、それまでこちらで待たせてもらおうか。いや、靴磨きはつづけてください。儂たちの方が邪魔をしているのですから・・・。」
あっけに取られていたジェシンとソンジュンは、そこでやっと立ち上がり、ジェシンの父と署長に椅子を譲って部屋の隅に立ったが、結局二人以外の警察官は外で直立不動で並んで立っていた。
世間の序列を垣間見てしまったようで居心地が悪かったが、一切を諦めて一心に靴を磨く親父の手元を眺めることで気持ちを落ち着けるしかなかった。