ノワール その39 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 教室に向かう途中、三組の前を通る。視線を感じて開いていた扉の中を見ると、ハ・インスがジェシンを見ていた。眉を顰めると、ふ、と顔をそらす。初めての行為に、ジェシンこそ眉をひそめた。

 

 「あと一つ授業を受けたら昼飯だぞ~優雅なご登場だな!」

 

 という能天気なヨンハの声に迎えられ、ムッとしながら席に着いた。遅れたくて遅くなったんじゃねえ、とは言いたいが、何をしてきたかを言うつもりはなかった。自慢するようなことじゃない。昨夜からの出来事はすべて行きがかりのことだからだ。

 

 だが、黒塗りの車で乗り付けたみたいになったことはやはり尾を引いていて、クラスメイト達が興味津々に見て来る。ジェシンの父親の職業については知らない者もいたのだが、知っているものが教えてやったのだろう。もうクラス中が親父のことを知ってるな、とジェシンは諦めてむっつりとしたままどっかりと席に座った。

 

 機嫌の悪そうなジェシンにヨンハも含めて誰も何も聞かなかったのは、すぐに次の授業開始を知らせるチャイムが鳴ったからで、更にその授業は数学だった。皆それなりに予習をしていないと追いつけない速さで授業が進むのだ。数学の教師曰く、いつ授業が出来なくなるかわからない、混乱の数年のせいで、出来るときにできるだけ授業を進めておこうとしていた癖が出てしまう、とのことだった。生徒たちは不満ではあるが、その心情には納得できた。特にジェシンのクラスは成績の良いものが集められるクラスだったから、学ぶことすら危うかった戦乱の間のことを思えば、その焦りは教えられる側にも理解できるのだ。

 

 眠くなるかと思ったが、興奮が続いているのか案外しっかりと起きていられたジェシンは、一度当てられて黒板で一問解き、そこからはお役御免とばかりに教科書の例題を解きまくってその時間を終えた。その様子を見ていたらしいヨンハは、げっそりとした顔でジェシンのノートを覗き込んだ。

 

 「俺、二次方程式の解なんかわからなくていいよ~。」

 

 とその日もそれなりの量が出た課題の数を数えて眉を下げた。表情の豊かな男だ。と思っていたら紙袋を出しながらジェシンの顔を見て、どうして親父さんの車で来たんだ、と尋ねてきた。

 

 「親父が学校に用事があったんだ。俺は良いって言ったのに・・・。」

 

 一応とりつくろってはおいたが、隣のクラスから大声が聞こえてきてはそうもいかなかった。

 

 ハ・インス君、職員室に来てくれたまえ

 

 教頭の声だった。眉をピクリと動かしたのをヨンハは見逃さず、目顔で教えるよう促してくる。声に出さなかっただけ、ヨンハは多少思慮分別があるのだろう。

 

 「・・・外で食おうぜ・・・。」

 

 母が登校すると言ったジェシンに慌てて持たせてくれた紙包みを持ってジェシンは立ち上がった。いつも白飯が余ると、常備菜を混ぜて円形にし、押し付けながら焼いて、いつでも夜食で食べられるよう布巾でおおって置いておいてくれるのだ。多分それだろうと思いながら廊下に出ると、教頭の後をついていくインスを見送る、カン・ムというインスの親友のような立ち位置の男が立っていた。

 

 その横を通り過ぎ、人気の少ない校舎の裏にでも行こうとしていたら、後ろから声がかかった。

 

 「ムン・ジェシン。待ってくれ。」

 

 振り向かないでもカン・ムだと分かった。

 

 「お前が車から降りてきたときから、あいつは機嫌が悪かった。」

 

 「見てたのかよ・・・。」

 

 うんざりしたようにジェシンが答えると、肩を並べて歩きながら、カン・ムは少し笑った。

 

 「真正面の門から入ってくるんだ。授業中でも目立ってた。音だってするし。」

 

 「二台だもんな~それも。」

 

 車など持っている家すらほとんどないのだ。学校に乗り入れる車など、普段はない。

 

 「だが降りたのはお前だけじゃなかったな。あれは父親と・・・。」

 

 「もう一台の車に乗っていたのは、刑事だ。」

 

 ジェシンが割って入るように言い放つと、カン・ムは一瞬黙り、そして言った。

 

 「さっき、お前の父親が車で出ていくのは見ていた。俺は席が窓際ないんだ。だが、もう一台はまだ残っている。そしてハ・インスが呼ばれた・・・。」

 

 人気のないところにたどり着くと、ジェシンは建物から外に出るための段差に座り込んだ。カン・ムは立ったままジェシンを見下ろしてくる。

 

 「聞かれてるんだろ。昨日、強盗事件があった。俺はそこで留守番を頼まれてて、そいつらとやり合った。捕まったそいつらの一人に、イム・ビョンチュンがいたらしい。それを調べに来てるんだ。あいつがハ・インスにまとわりついていたのは周知の事実だから、名前が出たんだろ。」

 

 飯、食うぞ、というと、どうぞ、というようにカン・ムは手を振りながらも、驚きの表情を浮かべていた。

 

 

 

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