㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
また一人、落第者が出た。というより追放された。下斎生という名で呼ばれる、本来は成均館に入れない頭の悪い者たちの内の一人だった。
ソンジュンやユニと同じように、上斎生と呼ばれる正規の成均館儒生は、小科と呼ばれる初球の科挙に合格しておらねばならず、成均館にはそのうちの上位の者が入れる。成均館で学べる人数は当然ん有限で、その基準を成績に求めるのは当たり前の話ではあるが、金や権力の力で子弟をねじ込んでくるものは後を絶たず、玉石混交といった感じではあった。それでも上斎生は小科には合格しているのだ。その線は守られていた。しかしなぜか下斎生という存在が成均館にはある。彼らは小科にすら合格できない落ちこぼれ達なのだ。親の見栄のため、自分の見栄のために、金を積んで成均館で学ばせてもらう。上斎生からは勿論侮られるし、かといって成績ではどうしても上斎生に敵わない者たちだ。
彼らは小科には最低合格を目指しながらも、半分以上は自分が腰ぎんちゃくとしてくっつき、漁夫の利を得るための交友関係築くことの方が大事なことだった。下斎生は金のある両班の子弟たちなので、皆力のある家の子弟である上斎生に取り入ろうとする。そのうち、西斎の掌義であるハ・インスは、最も取り入りたい人の一人だった。彼の父親は最大派閥老論の出世頭だったし、インス自体もその傲慢な態度が将来の出世を約束されているもののように見せていたのもある。
そして彼らは、インスと同じようにイ・ソンジュンにも取り入りたかった。ソンジュンの父はインスの父が従っているほどの老論の重鎮であり王宮での地位も老論の中で最も高い重臣だ。ソンジュン自身も彼のその卓越した頭脳や物腰の上品さで一目置かれている。しかし彼には成均館に入ってきたときから親友がいて、その座は誰にも取ることができなかった。その親友が、キム・ユンシク、ユニだったのが、更に彼らの妬みの対象になったのだ。
派閥が同じでもなく、家柄も、どこの馬の骨だか、というほど弱小な出身。そんな奴が今最も取り入りたい青年の腰ぎんちゃくなのだ。周りにはそう見えていた、というより周りはそう見たがっていた。キム・ユンシクがソンジュンを離さないのだと。
しかし皆本当はよく知っていた。離さないのはソンジュンの方なのだ。ソンジュンは少年の頃から友人を作らないことで有名だった。穏やかな態度で、交友をやんわりと拒絶される。その否定がユンシクには向かず、逆にソンジュンがユンシクを気に掛け守り、そして尊重しているように見えるのが悔しいのだ。ユニが入学以来受けた嫌がらせも、原因は大体その嫉妬に由来する。
下斎生の一部も、ハ・インスにくっつく者も含めてユニを憎んだ。だから小さな嫌がらせを良く仕掛けてきた。途中からはジェシンが盾になりなかなかできなくなっていたが、それでも憎む気持ちは減らなかった。金もない、後ろ盾もない、地位のある父親さえいない弱小派閥の小せがれが、国一の秀才を独り占めにしているのだから。i
そのうちの一人が落第した。理由は人の答案を写し見した事。一度ではない。彼らを指導する教授が数回観察したうえで現場を押さえた。試験中に彼は、背後の友人から回された紙を見ながら答案を書いていた。勿論その友人も共に博士の前に引きずり出された。
「この紙きれには見覚えがあるのだよ。私のところに二枚、ある日届けられた。」
下斎生二人は真っ青になった。くちゃくちゃに皺が寄った紙切れ。丸めて捨てたはずのそれ。一枚は前回、もう一枚はその前の試験のもの。それ以前のものは風呂の焚きつけをしている斎直に言って窯に放り入れて燃やしたが、数回の成功で味を占めて、捨て方が雑になったのを今更ながら後悔した。
「筆跡も同じ。何よりも、全く同じ答案が二つあるのだよ。勿論問いは一つだから似通った解になるのは当たり前だが、改行、語尾に至るまで全く同じなのは筆写したものとしか考えられない。」
写しを渡した方の下斎生は、ひたすら謝ったために赦されたが、うつした方の下斎生は、紙切れを届けた者の究明を立場もわきまえずに訴えたため、即時追放と命じられた。
「ある朝、机の上に置いてあったのだよ。君たちの情けない行動に怒ったこの成均館の霊が届けてくれたのではないか。」
腹立ちまぎれに言い放った教授の言葉が、またもや成均館中に広まった。