㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
その後、ユニは朝まで眠り続けた。三人の儒生はジェシンの手によってボロボロのまま中二坊から放り出され、這う這うの体で二人は同じ部屋に、一人は自分の部屋に戻った。頭はぶつけ合って痛い、顔は床を引きずられたときに擦れてしまいこれも痛い、帯で締めあげられた腹には青く赤く筋が走り、その前に殴られた頭は更に痛んだ。けれど恐ろしいのは、キム・ユンシクが眠り込む前に呟いた言葉だ。キム・ユンシクは俺たちの名を、あの建物でキム・ユンシクが出会った声の主に言ってしまったのだろうか。間違いなく怪奇のものに違いないその声に知られてしまったのなら、呪われてしまうのだろうか、という事の方が恐ろしい。三人はガタガタと震えながらその夜を過ごしたらしい、とヨンハが聴きこんできた。
そのヨンハも頭にこぶを作っている。朝一、ふらふらと朝帰りしてきたところをジェシンに取っ捕まり、殴られた上に中二坊にに引きずり込まれて、眠り込むユニの顔を見せられたのだ。ふくふくと寝ているユニの顔を見て、どうして俺が殴られなきゃならないんだ、と珍しくまじめに抗議したところ、起きてきたソンジュンに淡々と昨晩の出来事を聞かされ、てめえのせいだ、とジェシンに叱られたのだ。
少々反省したヨンハは、起寝の鐘が鳴って起きだしたユニに潔く謝ったのだが、本人の方が何の話か分からない、みたいに首をかしげるおかしなことになっている。
「お前、怖い目に遭ったばかりだろうが!」
「怖かったけど・・・声の人は僕には優しかったんだもん・・・。」
呆れるソンジュンとジェシンに申し訳なさそうにしながら、もう一度覚えている限りのことをユニはヨンハに説明したが、
「う~ん・・・俺も面白がって成均館に残る幽霊話は聞きかじってきたけどさ、そんな風に話しかけて来る幽霊は初めて聞いたよ。それに、脅かさずに助けてくれるなんてさ。」
「けれど、キム・ユンシクを怖がらせようとした人たちには何か咎めを、みたいなことは言うわけですから、矢張り脅しているのでは・・・。」
「まあ、そうなんだろうなあ・・・。」
というはっきりしない話になり、うやむやのまま朝餉に向かった。騒ぎを聞いた儒生たちが興味深げに見てきたけれど、三人の儒生の酷い様子を見て余計なことを言いに来る者はいなかった。だが、日のあるうちに、と何人もが建物は見に行ったらしい。ヨンハも行った。そして確かに扉と縁側の柱に、しっかりと棒がさし渡され、中から押し開けることなど不可能だと皆納得した。勇気あるものはすぐそばまで近づいて確かめた、と言い、柱に食い込むほどぎゅうぎゅうにつっかえてあるのだから、テムルのような小柄なものには絶対に扉は開けられない、との保証付きだったし、第一開けた跡すらなかったのだ。
「けどテムル~。声以外は何も見てないのかい?」
「うん。だって怖いもん。声は優しかったけど、真っ暗なんだよ・・・誰かもわからないし。それに、その辺りで僕何だか頭がぼうっとしちゃって・・・僕どうやって外に出たのかな?」
「それも覚えてないのか?空は飛ばなかったか?」
「飛んでないと思うよ・・・。」
無茶苦茶になり始めた話に、ユニとヨンハを引きはがしながらも、ジェシンとソンジュンも首をかしげるしかなかったのだ。
何も起こらないまま数日が過ぎた。三人の儒生も、呪われてはいないようで、物音に怯えながらも通常の生活に戻っていた。勿論ユニも普段通り講義を受け、課題をこなし、筆写の仕事をこなしていた。ジェシンとソンジュン、そしてヨンハが寄ってたかってユニと行動を共にしてくれるが、安心でもあるし、少しうっとうしくもあったが、文句を言うのは贅沢だと分かっていた。心配してくれているのだから。
けれどユニには一つ約束があった。だからその晩、ユニはどうしても、どうしても、こっそり抜け出さなければならず、二人の寝息を見計らって、音もたてず外に滑り出たのだ。