赦しの鐘 その50 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 朝、早くに成均館に向かうジェシンとユンシクを、ユニは見送った。その後王宮へ上がる父も見送るのだが、出てきた父は穏やかな表情でユニを見て薄くほほ笑んだ。

 

 「母は落ち着いているか?」

 

 「はい。今日は見せられない顔ですからお見送りはごめんくださいとのことです、お父様。」

 

 「ははは。そうか。では母のことを頼んだぞ、ユニ。」

 

 「はい。行っていらっしゃいませ、お父様。」

 

 ユニの瞼も少し腫れぼったい気がするが、とは口に出さなかった。妻とユニは、おそらく二人寝床の中で少し泣いたのだろう。早朝のジェシンとユンシクの挨拶と報告の時に、その様子は想像できていた。

 

 

 

 「父上。ユニは本日以降も我が家で暮らしてもよろしいのですよね。」

 

 挨拶もそこそこに言いだしたジェシンに、父は眉をひそめた。ユンシクを見ると、少しうつむき加減にしているが、暗い陰りはなかったので、また息子の方を向いて、当たり前だ、と短く返した。

 

 詳しく、は時間がないので簡単な説明によると、ユンシクが父との挨拶の時に言いそびれた、礼以外のユニのこれからについてのキム家の実母の意向が、ユンシクが本当の一人前になるまでのユニの養育の継続だった。経済的な面、住まいと与えることのできるもの、それは物心ともにだが、様々なことを考えれば、当然ムン家にいた方がユニは幸せに違いない、と誰もが言うだろう。しかし、実の家族がいることを分かっていて預かり続けた娘だ。ムン家の方からそう言いたてるわけにはいかなかった。しかし、ユンシクはジェシンの話にこう付け加えた。

 

 「母は、姉に対する罪悪感をもって今まで来ています。姉の幸せを考えてのことでしょうが、勿論会いたくて仕方がないのも本当なのです。けれど、刺激は・・・少しずつでいいと僕も思います。離れていた年月を取り戻すのに、母に会いに行ってもらってよろしいでしょうか。」

 

 「ユニは・・・どう言っているのだ?」

 

 「会いに行くと言っておりました。目のお悪いお母上のお世話を慕い、と。けれど我が母の体も弱いので、お二人のお世話をするのだから忙しくなる、と張り切っておりました。」

 

 そう言ったジェシンの言葉に、父は苦笑した。そんなことを言うユニの表情が目に浮かぶ。明るく、元気に、よく通る声で言ったのだろう。苦労させたつもりはないが、ユニは自分が役に立つことに張り切る質がある。無理をしていないと見せる節もある。幼い子に気を使わせないよう、妻は注意していたはずだが、長子ヨンシンの不幸前後にはそれが出来ない時期があった。ユニは屋敷の中でひっそりと、けれど懸命に皆を慰め続けていた。そこに居るだけでユニは慰めだったのに、母の世話をし、ジェシンに寄り添い、父に茶を淹れて屋敷中を駆け回った。泣きたかったろうに、もっと。ヨンシンを慕っていたのはユニだって同じだったのに。あの頃から、ユニは子供ながらぐんと大人に近づいた。懸命にムン家の光であろうとしていた。今も、キム家を照らしながらムン家も照らそうとしている。

 

 「ジェシン先輩が・・・姉上には母が二人もいる、と言ってくださいました。姉は本当に幸せなのだと言ってくださいました。僕もそう思います。改めて、姉に家族を与えてくださったこちらの皆様に感謝申し上げます。」

 

 深々と頭を下げたユンシクを連れて、ジェシンは早朝の靄の中を成均館へと戻って行った。今度の帰宅日に、キム家にユニも連れて行かせるが、その時には自分も付き添っていく、と言い置いて。

 

 

 「ユニ。ここはいつまでもお前の家だ。忘れるのではないぞ。」

 

 そう言い置いて、父は籠に乗った。ユニの見送りは玄関までだ。門の外には出ない。門を出るとき振り向くと、ユニがにこにこと小さく会釈して、そして手を胸元で振った。可愛い娘。あの子がこの屋敷から去る日など考えられない。キム家を訪問するのは仕方がないとして、嫁ぐことになりでもしたら、屋敷から音も光もなくなってしまう、そんな気がする。嫁ぐ・・・ああ。ジェシンが婚儀を挙げたらまた違うのか、と考え、その先に、ユニが肩身の狭い思いをしては困る、とも思う。

 

 いっそ・・・。

 

 そうちらりと思ったことを、父は数日後に妻から提案されることになるのだ。

 

 

 

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