赦しの鐘 その40 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 成均館に入る前日にムン家にキム・ユンシクを泊める、そう父から連絡が来たのはすぐだった。お前はその日は同席するのか、と簡単に書かれたその書状をクシャリと丸めて、遣いの下人に、戻ると伝えよ、とだけ返答した。

 

 「おい。」

 

 頭を下げて戻りかけた下人を、ジェシンは呼び止めた。何事かと慌てて数歩戻ってきた下人に、

 

 「・・・屋敷はどんな様子だ。」

 

 と尋ねたのは、その下人が執事の用事をよくする者だったからだ。屋敷内のことをよく見ているだろうその男は、びくりとしながらも少し考え、答えた。

 

 「いつも通りではございますが、昨日、私たちにも、お嬢様の弟様がお客人として屋敷にお越しになるというお話がございまして、少しざわついてはおります。」

 

 「・・・ユニは?」

 

 「お嬢様は、私は今朝お声を掛けて頂きましたが・・・。」

 

 「なんだって言ってた?」

 

 「客用の部屋は整ったのかというご質問と、それから・・・若様がいつお戻りになるかというご質問でした。その時は遣いに出ることは命じられていませんでしたので、お嬢様に、若様へ何かご伝言がありましたらひとっ走りいたしますと申したんですが・・・。」

 

 下人は淡々と答えた。

 

 「ちょっとお顔を見たくなっただけだとおっしゃって、奥様の部屋にお戻りになりました。若様・・・お嬢様に何かお伝えすることがございましたか?」

 

 いや、とジェシンは下人に帰るように言った。

 

 「どうせ明日戻る。お前は父にそのように伝えてくれればいい。」

 

 「かしこまりました。」

 

 明日は講義は丸々欠席だな、とジェシンは寝ころび、中二坊の天井を眺めた。少し片づけてある。元から持ち物は少ないし、三人部屋を一人で使っているのだ。幾人か入学して来るものを積極的に同室にするつもりは毛頭ないが、ユニの弟が知己がおらずに困れば入れてやってもいいと思ったのだ。

 

 成均館は、儒生が寄宿する清斎が二棟ある。東西に分かれるその棟は、本来西斎に進士科に通ったもの、東斎に生員に通った者と分けられているはずだった。だが長年の慣行となって、西斎には老論の派閥の子弟、東斎はその他の派閥の子弟となって久しい。ユンシクはイ・ソンジュンと交友関係をもったようだったが、清斎は共にできないだろう、というのが当たり前に頭に浮かぶのだ。現左議政という煌びやかな権力者を父に持つソンジュンを、老論の奴らは手放しはしない。当然ソンジュンだって西斎に入ることが決まっているだろうし、そこにユンシクの入る隙は無かった。かといって、今まで世捨て人のようだったユンシクが、同派閥の者に知己がいるとは思えないし、皆ユンシクが役に立つものかどうか見定めるまでは遠巻きにするだろう。そんなものだ。では他に知己と言えばジェシンしかいない。寝る場所ぐらい構わねえ、とジェシンはわりにこだわりなく決心していた。あいつちっこいし、そこらで転がってても邪魔にはならねえだろ、ヨンハよりうるさくはねえだろうしな。そう思いながら自分の持ち物を、簡単に柱で三つに区切っただけの棚の一番端に乱雑に避けて積んで、もともとがらんどうだった部屋がさらに片付いた気になって、その晩は寝たのだ。

 

 朝から屋敷に戻ると、確かに下人が言った通り、なんとなく屋敷は浮足立っていた。ジェシンの部屋の隣の扉が開け放たれ、そこには布団が一組隅に積まれていて、小机や衣桁などもあった。それを見ながら突っ立っていると、お兄様!と小さく叫ぶ声が聞こえて、ジェシンは振り向いた。

 

 「お兄様、お兄様!ご相談したかったの!早くお戻りでうれしい・・・。」

 

 腕に縋り付いてきたユニの髪をさらりと撫で、どうした、と聞いてやった。母上は、と聞くと、今日の指図をしているが、あまり元気がないのだと唇を尖らせる。

 

 「じゃあ、まあ・・・母上の前で相談事ってのもご心配かけるな。俺の部屋に入れ。」

 

 通りかかった下女に、ユニやジェシンに用事があれば呼びに来いと伝えたジェシンは自室にユニを連れて入った。

 

 初めて、扉を閉めた。

 

 

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