赦しの鐘 その38 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 放榜礼の日は、寒いが晴れていた。生員・進士科共に王様の前で上位10位までの者が並びその成績をお褒めに預かる。ユンシクはその場所に、遠い故か逆に早く着きすぎていた。しかしそのうちにイ・ソンジュンが来るだろうと少し心待ちにしていたため、心細くはあったが試験を受けた日よりは怯えてはいなかった。

 

 最初に受けた進士科の試験の日、ユンシクは初めて同年の知り合いが出来た。彼はイ・ソンジュンといい、老論の家の子息であると教えてくれた。一応南人に属するキム家ゆえユンシクもそう自己紹介したが、試験のために集まった人の多さに潰されそうになり、体格のいいソンジュンとその供のスンドリという下人に助けられながらユンシクは開門を待つことができた。彼は大層速く試巻を仕上げてしまい、それでもユンシクが終るのを待ってくれて、二人は共に門を出た。何か言いたそうにしていたソンジュンが、別れ際に、お互いに合格を祈ろう、と声を掛けてくれ、もし成均館で一緒に学べるなら友人になってほしいとまで言ってくれたのだが、最初は面食らったまま帰途に就いたユンシクも、徐々に知己を得た嬉しさがこみあげてきていて、次の生員の試験の時はものすごく調子が良かった記憶がある。勿論、一度経験した受験のおかげで慣れたせいでもあるが。生員の時は会場が違ったため会えなかったが、合格を確かめに発表の高札が掲げられるのを見に行ったとき、彼の名がどちらにも『壮元』として書かれていたことに、ものすごい人と知り合いになってしまったと驚いたものだった。だが、彼の態度は終始穏やかで真面目だったため、彼の真意を疑うことなく今に至る。

 

 門から少し離れたところで落ち着きなくソンジュンを待っていると、ぽん、と肩を叩かれた。勢い良く振り向くと、そこにはイ・ソンジュンではないが知っている顔があって、飛び上がりかけた体がふうと落ち着いた。

 

 「あ・・・あなたでしたか。」

 

 「なんだ、誰か待ってるのか・・・。まあいい。とにかく商家に無事に受かったらしいな。それも生員は榜眼だと聞いた。」

 

 そこに立っていた、ユンシクをチンピラどもから助けてくれた青年に、にこにこと答えた。

 

 「はい。僕自身が驚きました・・・。ありがとうございます。」

 

 ぺこりと頭を下げたユンシクだったが、ちょっといいか、と言ったその青年の真面目な顔に、笑顔をひっこめた。

 

 「あのな・・・あの・・・。俺は今成均館儒生なんだが、お前に名乗った事はないな。」

 

 「はい・・・お名前をあの時も、前回も、途中で聞きそびれたといつも後悔していました。」

 

 ああ、と頷いたジェシンは、顔を引き締めた。

 

 「榜眼ということは、おそらく望めば成均館に入ることが許されるだろう。望むべきだ。いいな。これから俺が何を言っても、望むんだぞ。」

 

 約束しろ、というジェシンに、ユンシクは驚いた顔をしたが、暫く考えてから頷いた。

 

 「いいんだな?」

 

 「あなたが・・・僕に何を言われるのかは分かりませんが、僕のことを思ってのことだと信じられますから。」

 

 たった二回、会って離しただけだぞ、とジェシンは口から出そうになったが、それは飲み込んだ。どちらにしろ、すぐにユンシクはジェシンが何者か知ってしまう。

 

 「そうか。では、言う。俺は・・・俺の名はムン・ジェシン、という。」

 

 ユンシクはしばらくその言葉をかみしめて、そしてハッと顔を上げた。

 

 「ムン・・・様とおっしゃいましたか?」

 

 「ああ。それに、屋敷には、実の妹同然の者がいる。お前の一つ年上。名をキム・ユニという。」

 

 ユンシクは目を見開いた。すぐに分かったのは当然だ。話をどこまで聞かされているのかはわからないが、先般ユニのこれからについての回答についての書状を、母の代筆として書いてよこしたのがユンシク自身なのだから。ムンという名に敏感であっても何もおかしくはない。

 

 「動揺させるつもりはなかった。ただ、お前が小科に合格した時には、ユニと一度会わせてほしいとお母上はおっしゃっていただろう。俺はお前のことを少し父から聞かされていたから、あの時にすぐにユニの弟だと分かった。何よりもよく似ているからな。だますつもりはなかったが、言いだしにくかったとは言える。すまない。だが、黙っているわけにはいかないと思ったんだ。それだけだ・・・それで、ユニに会いに来てくれるか。」

 

 そう言うと、ユンシクは一瞬の後、クシャリと顔をゆがめた。返事を待ったジェシンだったが、口を開こうとしたユンシクの肩を、ぐ、と引き寄せたものがいた。

 

 イ・ソンジュンだった。

 

 

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