赦しの鐘 その3 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 可愛い、賢い、と何度か繰り返されたユニを表す言葉に、女好きを自認するヨンハは興味を抱いたが、流石に会ってみたいとは言えなかった。事情を聞けば、物見高く見物に行くように思われる気もした。それは親友に対して失礼だ。そういう風にみられる義妹も。

 

 けれどヨンハがムン家が養っている娘がいることを知ったのは、ちょうどそれが知られる予兆だったのかもしれない。それは小さな事件から始まった。

 

 ムン家に客があった。それをジェシンが聞いたのは、ことが収まってからだったが、珍しく父に呼び戻されて知ったことが、ムン家とすれば小さな事件では収まらないことであることは明白だった。

 

 ユニの実家、キム家の親戚という者が訪ねてきたのだという。母方の親戚で、老論という派閥ゆえに、と密かに訪ねてきた。割には態度は大きかったとジェシンの母は怒っていた。対応したのが母だったのだ。そして穏やかな母が怒るだけの理由があった。

 

 「ユニを嫁に出せと言ったのだそうだ。」

 

 「それは・・・実家の方に縁談が来たという事ですか?」

 

 「それだけならば別に吟味してよい家ならば考えても良かった話だ。そうではない。実家の借金のかたにユニを嫁に出せと言ってきたのだ。」

 

 ユニの実の母と弟は、南山谷という集落にある小さな屋敷で暮らしている。何度か様子を見に行かせていたジェシンの父には、質素に暮らしているという報告を受けていた。それなりの金の補償があったのを知っていたから、弟が成人するまで持つだろうという見立てだった。だが、実際は弟が火事の後遺症のせいかどうかわからないが虚弱な少年だったらしく、医師の診療代や薬代に金は使われていたらしい。それでも持ちこたえてはいたようだが、金は勝手に増えはしない。親戚に借りるのもままならず、親切に声をかけられたら縋ってしまったらしかった。その親戚はユニの存在を覚えており、弟の容貌の美しさから、姉娘も美しいと断定して、それを自分の出世の種に使おうと画策したのだ。親戚に美しいおぼこの娘がおります、ただその家は金に困っておりますので、少し援助しましたらすぐに娘を差し出しますよ、なあに、返せなければ金に替わるものを差し出すと借財書を書かせればよいのです。そう言って、目の悪い実の母に借財書の一部を読み上げずに説明し、署名させた。その紙切れ一枚をたてに、ムン家に意気揚々とやってきたのだ。勿論、ジェシンの父がいない時を見計らって。

 

 「執事が対応し、驚いてお前の母に言いに行ったのだ。どちらにしろ、すぐに連れて行くと息巻いていたらしいのでな。」

 

 「ムン家の養女だと言えば。」

 

 「ユニは・・・戸籍上はキム家の娘のままだ。いずれ選ばせてやらねばと勝手に戸籍を動かすことはしなかった。ユニが望んだ家族のカタチではない故な。我らがゆがませてしまったのだから・・・。そ奴はそれも調べてきておった。」

 

 ジェシンが恐ろしい顔をしているのを見て、父は、ユニは無事だから落ち着け、と言った。だが、似た者親子、自分も今から殴り合いをしそうなほど剣呑な顔をしているのはお互い様だった。

 

 「お前の母は勇敢であったぞ・・・。戻ってから聞いたのだが、すぐに立ち上がり、手文庫の中から金を紙に包んでもち、執事にそ奴の待つ部屋まで案内させたのだ。奴は驚いていたらしい。」

 

 ムン家のような大きな家の奥方が、自分に来る以外の客に顔を見せるのはめったにない事だ。特にジェシンの母は内棟から出ることの少ない人だった。だが、胸を張り、堂々と客に相対したのだという。

 

 借財書を出しなさい、と言った母の前に、客はひらりとそれを見せたらしい。10両。そうですか10両ちょうどでよろしいのですね。そう言って金包みを相手の膝の前に押しやり、中を改めなさい、そう言ったのだという。20両入っていたそれを、持ってお行きなさい、その代わりこの借財書は置いていき、金輪際このようなことをキム家に仕掛けないように、と言い渡し、追い返した。あ、あ、と言いながら、執事と、数人の下人ににらまれたその男は金包みを懐にしまうと慌てふためいて屋敷を去った。そしてジェシンの父に報告されて、その借財書は父の手元に残った。

 

 ジェシンにひらりと見せられたその紙には、貸主としてジェシンのよく知る名が書いてあった。

 

 ハ・ウジュ

 

 父のかつての部下であり、キム家の当主を謝って捉え殺した張本人であり、ジェシンの兄を讒言により冤罪に巻き込んだ、憎き老論の両班だった。

 

 

 

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