箱庭 その75 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 四人は30日ほど書院を離れていた。余裕をもって試験前に都に行き、小科を二種受けた上でそれぞれの合否結果が出るのを待っていたからだ。それこそユンシクはユニとそんなに長い期間離れていたことなどないから、戻ってきてユニの姿を見た瞬間立ちすくんだ。

 

 ユニが、更に大人びて見えたから。

 

 それはあとの三人も同じだったらしい。四人で門内に入ったところで、籠に青菜をこんもりと乗せたものを胸の前に抱えて歩く姿があった。何のこともない、いつも見ていたユニの家事仕事の姿。青菜を水場で洗ったのだろう。いつだってしていたことだ。けれどその籠をもって、門前で起こった彼らの気配に気づいたのだろう、歩みをゆっくりとに変えながら、ユニは四人を見た。

 

 あんなにほっそりとしていただろうか。あんなに髪は艶めいて光っていただろうか。水にさらされた手の先はかわいそうなぐらい赤いのに、甲から手首にかけてすうっと白く変わるその素肌はあんなに光を跳ね返しているほどだったろうか。

 

 「お帰りなさい。そして皆さま・・・合格おめでとうございます。」

 

 そしてあんなに、あんなに声が胸に響いていただろうか。

 

 しばらく立ちすくんだ四人。そしてヨンハがどうにか立ち直った。

 

 「ユニお姉様~~!俺たちやりましたよ!あ、ねえ、お姉様、今日はいつもと違う衿だ!前掛けも新しいものですねっ!」

 

 ヨタヨタと近づくのも無理はない。ものすごく速足で歩き通したのだ。本当なら暗くなってからしかつかないはずの書院に、夕日が沈む直前にたどり着いた。年が変わり暦の上では春になっているからこそ少し日は長くなったが、それでもものすごく短時間で着いたことには変わりない。足腰の強くないユンシクや、歩きなれないヨンハなどはもう膝ががくがくしていたところだった。

 

 だから夕陽に照らされたユニが光り輝いて見えたのかもしれない。そう皆思いたかった。弟のユンシクでさえ。ようやく小科に受かり、一つ大人の両班の男に近づいたというのに、またユニに先に大人になられてしまったのかと思うほど、夕日の中のユニはまるで見上げる気分になる神々しさだった。

 

 「あら、どうしてわかるの?実家に一度戻ったら、お母さまがお作りになったものを下さったの。年が改まったのだから新しいものにかえるのもいいでしょう、っておっしゃって。」

 

 「紅色の衿も、生成りの前掛けも良くお似合いですっ!」

 

 ユニはふんわりとほほ笑んで、さあ、と四人を促した。

 

 「先生にご挨拶なさいませ。」

 

 

 チェ師に無事合格と、王様より成均館入学の命が出たと四人は報告した。入学の日も決まっている。今から一月後、ちょうど春の花が満開の頃に四人は成均館儒生となるのだ。

 

 イ家、ムン家、ク家は、それぞれ書院の引き上げのために荷持ちの下人をよこすとともに、当主から挨拶をさせてほしいという伝言があった。少しずつ日は違い、最も早く迎えが来るイ家は五日後、ムン家とク家は十日後前後当たりに当主が都合をつけて直接来るという。その日が彼らの書院との別れの日だった。

 

 「それまで、こちらで変わらず講義を受けさせていただけるでしょうか。」

 

 そう言ったのはソンジュンだった。ジェシンとヨンハにも異論はないらしい。

 

 「構わない。成均館の講義はもっと厳しいと聞く。少しでも頭を働かせた状態で行くべきだろう。」

 

 ありがとうございます、と頭を下げた四人は、そろって師の居室から出た。厨の方を見ながら自分たちに与えられた部屋へ向かって縁側を進む。薄く煙が上がるのがようやく見えるほど日は暮れた。飯の炊きあがる甘い香り。毎日自分たちに与えられたユニの心が、煙と香りに紛れて遠くに行ってしまう気がする。

 

 「水・・・水が足りなかったら困るので、俺、ちょっと・・・。」

 

 ソンジュンが部屋に荷を置くと急ぎ足で庭へ降りて行った。

 

 「薪は運ぶときに棘があぶねえから、明日の朝の分ぐらい用意しとくか・・・。」

 

 とジェシンが荷を放り投げてこれも庭へ降り、建物の裏手に消えていった。

 

 「あいつら、元気だな・・・。」

 

 座り込んだヨンハの横で、自分の部屋にまだたどり着かないユンシクも、少ない荷を傍らに座り込んだ。一度師の部屋で座ってしまったので、もう脚に力が入らないのだ。

 

 「僕、明日から歩く訓練もする・・・。」

 

 そう言うユンシクに、ヨンハは苦笑しか返せなかった。

 

 

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