箱庭 その44 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 何者、という低い誰何の声がしたため、パク武官が素早く立ち上がり庭へ向かった。するとそこには里の男が二人、息を切らして立っており、兵に囲まれていた。そこへユニも厨から急いで出てきていた。

 

 「あの、私が先ほど使いに来た者に、頼みごとをしたのです。足らないものを運んできてもらったので・・・。」

 

 そう言うユニに、パク武官が頷いて、兵が囲みを解き、男たちはほっとしたようにお嬢様よう、とユニの方へよろよろと歩んだ。二人とも首の後ろに布包を背負っている。

 

 「ありがとう、急がせてごめんなさいね。明日の分はまた作ってもらうことになるけれど、里長様には言伝してくださった?」

 

 「うん、お嬢様ぁ・・・。またもち米を取りに走らせてたよう。今できた分を全部持たせてくれたよう・・・。」

 

 息がまだ調わないまま懸命に訴える男たちを連れて、ユニは厨に戻っていった。パク武官はとりあえず兵に再び待機を命じて、部屋の前まで出てきていた内官とヨンダルのところに戻ると、ヨンダルがははあ、となんだか納得したような顔をしていた。

 

 「これは・・・かなりユニ殿にお手間をおかけしているなあ・・・。私、手伝ってまいります。」

 

 と軽々と厨に向かったのだが、頭を掻きながらすぐに戻ってきた。

 

 「追い出されました。運んできた者たちがそのまま手伝ってくれておりまして、これ以上手伝いはいらない、だそうです。」

 

 「あの、博士、ユニ殿は何を・・・?」

 

 そう尋ねるパク武官に、ヨンダルはこの書院の一日を教えた。その中で、午前と午後の講義の間には成均館と同じく昼飯などは摂らないが、若者たちだから腹は減るだろう、と軽いおやつのようなものはヨンダルの母のときも良く出してくれていたのだが、それを今もユニは実行していること。そしておそらく。

 

 「あの者たちが運んできたのはトック(餅)でした。搗き立てで、今男たちが棒状に伸ばして切っておりました。四人の儒生の分だけではなく、我らの分も用意してくれているようです。」

 

 やがて厨からは何かを挽いているゴリゴリという音も小さく聞こえ始めた。

 

 

 「いや、先生・・・。成均館の講義にも劣らぬ・・・。余が年少の折に、この者たちのように先生に師事いたしたかった・・・。」

 

 丁寧に会釈した王様に、チェ師はただ無言で会釈を返した。この国で最も身分の高い人ではあるが、今、この場ではチェ師が師の立場にあり、相手の身分を重んじながらも、その師という立場のまま礼を返すその姿に、頭を垂れているジェシン達も誇りが胸に湧いた。自分の師は素晴らしい。その堂々たる、けれどどこか謙虚さを忘れないチェ師の姿勢は、都での自分の周りにいる両班には見られないものだったから。

 

 王様は少し時間が欲しい、と言い、儒生たちの方に向き直った。四人は、前列にソンジュンとユンシク、後列にジェシンとヨンハ、と、年齢順に並んでいた。王様はチェ師からユンシクとヨンハについて簡単に紹介を受け、興味深そうに特にユンシクを眺めた。

 

 四人の若い少年儒生は、王様がその講義の様子を見るに、大層優秀だった。勿論足らない知識は沢山あり、チェ師から重ねて質問を受ける様子は初々しいものだったが、すぐさま知識を吸収し、知ったことを書きとめるその姿は頼もしい限りだった。イ家の子息ソンジュンの神童ぶりと、ムン家の子息、王様が期待しそして申し訳なくも死なせてしまう事になったヨンシンの弟ジェシンも、兄に劣らず優秀だと噂を耳に入れていたが、全く噂を裏切らないもので満足した。そして如才ない賢さが見えるヨンハにも、その出自からも新しい風を吹かせてくれそうな期待が持てる。しかし、ユンシクだけが未知数だった。受け答えはしっかりしていて賢く、筋道だった論理は目を瞠るものがあった。しかし彼については本当にそれしかわからない。ただ、その若さと必死さが、王様の目を引いた。

 

 「キム・ユンシクと申したか。そなたに一つ質問がある。『朋』とは何か、そなたの意見を聞きたい。」

 

 ユンシクの肩がきゅ、と縮むのが部屋中の者に分かった。

 

 

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