箱庭 その39 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 御幸

 

 物思うことはあっても、若い少年儒生たちの毎日は学問のためにある。静かに、けれど生命力の溢れる日々は、彼らを確実に青年へと成長させつつあった。

 

 そんなとき、慌てた様子の里長が書院にやってきた。ぺこぺこと頭を下げながらチェ先生の居間に入り、またぺこぺこしながら帰って行く様子に、皆首をかしげながら庭仕事などをしていた。しかし里の者がやってくるのは、野菜などを届けてくれる他にも、相談事などでないこともないので、不思議に思わず、すぐに気にならなくなっていた。次の日、どこかの下人が書状を届けに来て、ユニの案内でチェ師に手渡していたのも、時折かつての弟子や、その親などから書状の届くことを知っていたから何も気にならず、更に次の日、里長の用事について先生から報告されて驚くことになった。

 

 「王様が、近くの温泉場に王母様の御静養にお付き添いで行幸されているようだ。」

 

 王様は政務にご熱心だと聞いていた、高官の父を持つジェシンとソンジュンは驚いた。勿論世間の噂に強いヨンハも。きょとんとしているのはユンシクだけだった。

 

 「王様を慮って静養を遠慮される王母様のお為だそうだ。勿論先に都に戻られるという事だが、せっかくの機会だからと近辺をご視察されると各村に通達があったと里長が知らせて参った。」

 

 それでもなぜ里長がチェ師に会いに来たのかは、皆その意味が分からずにいた。

 

 「お前たちは村を出歩くわけでもなく、我が家のような小さな書院は珍しくもない故何のこともないと思っていたのだが、昨朝、書状が届いたのは皆も知っているであろう。」

 

 そう言えば、と頷くと、は、とソンジュンが小さく何かに気付いた声を上げた。

 

 「先生のご子息は、確か成均館で博士・・・。」

 

 

 ジェシン達の父は皆知っていたはずだ。自分の子息を預けるのに、預ける相手とその場所を調べるのは当たり前の話だ。それぐらい彼らの家は大きいし、その跡継ぎたる息子は大事な存在だった。一度に何十人も教えるような書院ではないが、長年幾人も優秀な官吏を出してきた雲書院は、書院としてもその師の人柄もすぐに納得できただろう。その上、その長子が大科に受かった後博士として成均館に奉職していることは決定打だったはずだ。ソンジュンはその話をうっすらと父から聞かされていた。

 

 

 

 「よう知っておったな。まだ若い故、儒生を教え諭せるのかいまだに案じて居るが・・・。その愚息が、王様の話し相手に任じられて共に参っているのだという。ここの出だという事で案内も兼ねるそうだが、我が書院に立ち寄りたいとのお申し出があったという書状であった。」

 

 いちいち温泉場に帰るのは視察の時間が減る、と里長に宿泊の打診が来たため、里長はどうしたらよいか慌てふためいて、里唯一の両班であり学者先生であるチェ師に相談しに来たのだという。里長の家は大きいが、流石にお泊り頂くには、とおろおろしていたため、川を少しさかのぼったところにある寺を借りるようチェ師が里長の代わりに書状を書いて持たせてやったのがあの日のこと。食事の用意などについても憂いていたが、とにかく宿泊場所を手入れしてまいれと段取りを教えてやったのだという。

 

 「三日後にこちらに来られるという。お前たちにも挨拶をさせることになろうし、おそらく試問されることを楽しみにしておられるのでは、と愚息は書いて参った。また、他のお世話について必要なことを教えよ、と遣いの者に返書をもたせた故、もしかしたら宿泊やお食事の準備にユニを貸し出すかもしれぬ。不便があるだろうが、里の者たちのためであること故、我慢するように。」

 

 ただし、とチェ師は落ち着いたものだった。

 

 「お前たちの学ぶ手を止める必要などどこにもない。いつも通りに過ごすことが儒生の本分ゆえ、そのつもりでいるように。儂も別に特別なことをしようとも思っておらぬ故。田舎の儒学者の、土地に馴染んだ学び舎をそのままご覧いただくだけの話である。」

 

 そう言われても、少年と青年のはざまにいる彼らにとっては、大事件が起こったのと同じことなのだ。

 

 

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