箱庭 その21 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 他家の娘という存在

 

 「ユニ様、俺がやりますから。」

 

 そう言ってソンジュンはユニを遠ざけた。屋根の上に、どうやって上ったのか子猫がいるのを、か細い鳴き声からユニが見つけたのだ。厨と成廊棟を繋ぐ渡り廊下の屋根はそれなりに勾配もあり、薄い瓦の継ぎ目に引っかかって落ちずに済んでいるだけで、危ないことこの上ない。廊下に立つと子猫が見えないし、柱にすがって背伸びをしても屋根の縁に指先すら届かない。かといって庭先に下りれば背伸びどころの話ではない。梯子なぞ書院にはないし、と厨からとりあえず踏み台を持ってきた。棚の上に保管している乾物などを入れた箱を取るのに重宝しているものだが、屋根に対抗するには大した高さはやっぱりなかった。試しに乗ってはみた。子猫の様子が良く見えはしたが、手は屋根の縁にすら届かなかった。もっと高くなるもの、と盥やら厨にある中で一番大きな鍋やらを持って来ては見たが、とてもじゃないができる気はしなかった。その間にも子猫は泣き続ける。ユニも泣きそうになったところへ、講義を終えたソンジュンとユンシクが出てきたのだ。

 

 ユニを見て速足で近づいたユンシクに、そこでバタバタしている理由を子猫を指さしながら教え、踏み台にどうにかして鍋を組み合わせようとするユニをソンジュンは止めた。

 

 「ユニ様、俺がやりますから。」

 

 とは言っても、背の高いソンジュンだって屋根に手が届くわけではない。どうするのかと見つめていると、足袋を脱ぎ捨てて庭先に飛び降りたソンジュンは、縁側に立ったままのユンシクを手招いた。

 

 縁側に浅く腰掛けたソンジュンの肩に両足をかけ、恐る恐る座ったユンシク。ユンシクのすねをしっかりと抱えたソンジュンは、行くよ、と言って立ち上がった。それは軽々と。持ち上げられたユンシクの方が小さく悲鳴を上げた。ひい、とソンジュンの頭にもたれかかるようにしがみついたユンシクをそのままに、ソンジュンはユニの隣に歩いてきた。

 

 「ユンシク。ユンシク。君を落としたりしないから、体を起こして腰を伸ばしてちゃんと座って。」

 

 そうなだめるように言うソンジュンに、ユンシクも恥ずかしくなったのか、言う通りに顔を上げそろそろと背筋を伸ばした。手はしっかりとソンジュンの頭を押さえつけているけれど。

 

 「仔猫見えるかい?ユニ様、ユンシクに教えてやってください。

 

 あ、とユニは慌ててユンシクに右手の方を見るように言った。さっきより下に落ち気味になっている。瓦の継ぎ目の引っ掛かりが、もがいている間にとれてしまったのかもしれない。

 

 「ソンジュン・・・もう一歩右・・・あ、行き過ぎ半歩戻って・・・うん、じゃあもう少し近寄ってよ・・・もう少し・・・ほうら、ほうら・・・こわくないよ・・・にゃあにゃあ~・・・ちっちっち・・・。」

 

 ユンシクがあやしながら手を伸ばす。高さはぎりぎりだが、ユンシクの目線がちょうどうまく屋根に届いたので、ユンシクは怖いのも忘れて今度は腰を浮かすほど体を持ち上げていた。

 

 ユニは猫も心配だが、ユンシクが不安定なのも心配ではらはらと口を押えている。ソンジュンはそれを横目で見ながら、ユンシクのすねをがっちりと押さえていた。

 

 「大丈夫ですよ、ユニ様。俺はこの手を離しはしません。」

 

 「ええ・・・ええ・・・分かっていますとも・・・分かっています・・・。」

 

 まるで独り言のような返答が聞こえた時、よいしょ、というユンシクの声が聞こえた。

 

 「捕まえた!」

 

 「よし。じゃあ下ろすよ。」

 

 ユンシクの腰が首の後ろに収まるのを確認してから、ソンジュンはゆっくりと二歩ほど歩き、方向転換して縁側に自分が腰を下ろした。ユンシクは器用に肘でソンジュンの頭を支えにして縁側に足を下ろし、両手で捧げ持っていた仔猫をユニに渡した。

 

 「まあ・・・こんなところにかき傷が・・・。」

 

 真っ白の仔猫は怪我をしていた。どうしましょう、とユニがうろたえる中、講義を行う部屋から、ソンジュンとユンシクとは違う本での講義のために少し遅れて終わったジェシンとヨンハも出てきて会話に加わった。

 

 「屋根の上にいた・・・?こいつが上れるわけねえな。トンビにでも攫ってこられたか?」

 

 「ああ、だから傷があるのかな、鳥の爪って鋭いもんねえ。」

 

 わき腹にある傷の予測はおそらく当たっているだろう。そう思うと胸が痛んで、ユニは仔猫を胸に優しく抱きしめた。

 

 「薬は舐めるといけないから、綺麗に洗って薬を塗ったら布を巻いてやりなさい。あとは・・・その仔猫の強さを期待するしかないだろう。」

 

 顔をのぞかせたチェ先生に頷くユニを見て、ソンジュンはそっと胸を押さえた。

 

 

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