㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
夜が更けてからユニが若者たちの寄宿する棟に来る事はない。ユンシクは元から厨のすぐ隣の内棟に当たる小さな建物にあるユニの部屋の隣に寝起きしていた。今は丈夫になってきたが、この書院にやってきたころはまだ床に親しむ日も少なくなく、ユニが看病しやすいようにとの配慮の上だったのだが、今は結局儒生たちの部屋数の問題からその部屋に居続けているだけだ。
すなわち、ユニは夜になり、夕餉など賄が終ると、チェ先生の部屋に鉄瓶に水を入れて火鉢にかけ、白湯がいつでも飲めるように用意してしまえば仕事は仕舞いなのだ。風呂を沸かす日は最後に入る。湯は湯桶の底近くにある栓を抜いてしまえば、残り湯が自然に流れていくように排水の道が石造りになっていて、体を拭き終わったころにはユニの力でも湯桶を傾けるように持ち上げて薪をかましておくことができるだけの水量になっているから、誰の助けもいらない。夕餉の後のユニを見ることは、儒生たちには稀なのだ。
だから、大騒ぎに心配したのだろう、ユニが顔をのぞかせた時、四人、いや、三人は動きが停まった。ユンシクは肩をすくめた。いつもきちんと寝るようにユニに言われているのに、今日は別部屋にいるところを見つかってしまったからだ。ここまでユニが来たのも、おそらくユンシクの部屋をのぞいて弟がいなかったからこそだ。いたら、様子を見て来るように言っただろう。
ユンシク以外の三人はあっけにとられてしまったのだ。何しろ、夜のユニ、それも湯上りのユニを見てしまったのだから。
髪は結われてはいるがまだつやつやと濡れて光っているし、何よりもホカホカと暖かそうに火照ったままの頬が眩しいほど部屋の灯に反射していた。決して煌々とつけているわけではないのに。寝衣にしているであろう、昼より質素なチョゴリとふくらみのないチマの上から長衣を肩掛けにしていて、きびきびと働いている姉さんぶりとは違う年上の女人の柔らかさが三人の目に飛び込んできたようなものだ。
「大声をお出しになると、先生のご迷惑になりますよ。それにユンシク・・・刻限が遅いと思いますけれど。」
「ご・・・ごめんなさい姉上!つい話し込んでしまって、ねえ!?」
ジェシンの腰に抱き着いたまま慌てるユンシクに、最初に我に返ったヨンハが同調した。
「そ・・・そうなんですユニお姉様!せっかく同時期にチェ先生の弟子になることができたのだから親交を深めようと・・・なあ!?」
ジェシンの背後から腕を押さえていたソンジュンも、そろそろとジェシンから体を離して、そうです、と何度も頷いて見せ、ジェシンもきまり悪げに頭を掻いた。
「・・・大声出して申し訳ない。」
そう言ったのを聞いて、ユニはにっこり笑った。
「騒がないで親交を深めてくださいね。ユンシクも・・・今夜はもう少しお話をさせて頂いたら?でも明日も定刻に起きることを約束出来て?」
「はい、姉上!」
ふふ、とユニはユンシクを手招いた。
「せめて白湯でも用意しましょう。熾火があるから湯はすぐに沸きますよ。ユンシク、取りに来てね。」
すう、と扉が閉まり、ユンシクはそのままジェシンの膝に顔を埋め、ソンジュンは膝立ちだった腰がすとんと落ちた。ジェシンは髪を更にかきまぜ、ヨンハはジェシンに締め上げられて乱れていた胸元をぎゅうぎゅうと引っ張って乱暴に整えた。
「ぼ・・・僕、白湯を貰ってきます・・・。」
ユンシクが這いずるように扉に向かい、ペタペタと足音を立てながら縁側を歩く音が聞こえると、三人は同時に長い吐息をついた。そして顔を見合わせた。
「いや・・・普段もおしろいすらお付けにならないと思っていたが・・・それでも昼とは雰囲気がお変わりになるものだなあ・・・。」
「てめえ・・・。」
ソンジュンなど、何も言えないのだろう、ただぼんやりしている。
「よく考えたら、ユニお姉様はお嫁に行ってもおかしくないぐらいのお年だよ・・・そりゃ、色っぽいって・・・。」
黙ってジェシンがヨンハの頭を軽くはたき、ヨンハも小さく呻いただけだった。ソンジュンが目を大きく見張って咎めるようにヨンハを見たが、それでも否定することもなく、ユンシクがペタペタと鉄瓶と茶碗の載った盆を抱えて戻ってくるまで、顔を見合わせて黙っているしかなかった。