㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
『ユニイ』の正体を明かすのはここまで、と相談の上線を引いた。これに関しては編集長も関わり、これからの『ユニイ』という作家のあり様の方針を決めたのだが、それはやはり『ユニイ』が出版社に取って大切な作家であり、今の正体不明の状態がやはり売りであることも辞める必要はない、と判断したためだ。出版社としてはデビューから作家として育ててきた自負もあるだろう。ユニも出版社というか、編集長や前編集者、それに『ユニイ』という作家の存在を面白がって大切にしてくれた編集部に対して恩を感じている。だからこそ自分のことを家族に伝えるにしても友人に伝えるにしても、独断では行わなかった。ジェシンに相談すれば、編集長にその旨が知らされることも承知の上で、きちんと段取りを踏んだ。それがユニの信用をさらに高め、ユニも希望した、これからも正体不明の作家『ユニイ』を貫くことで合意したのだ。
正直、助かります、とユニは笑った。同じく出版社に取ってドル箱のミステリー作家はメディア露出も多く、新作が出るたび、または作品が映像化されるたびに画面に現れた。あらわれざるを得ないのだ、ここまで来れば。ファンは喜ぶが、アンチだっている。ミステリーとしては結構スプラッタな内容が多い作品は、教育上、やら社会に影響を与える、やら批判も巻き起こる。ああいうのに耐える自信はないです、とユニは笑う。作品への批判だけならいい。それに乗じて人柄の否定やありもしないことを暴露話のように拡散されると編集者も嘆いていた。確かに会遣いの大変な作家だが、家の中がスプラッタ状態になるのは創作に没頭しているからであり、その時間を除けばぼうっとしたゆるい人だよ、といつもならその生活の様子に愚痴を言う担当編集者が必死に味方をする。それぐらいネット上は勝手なことを言う。そんな中にユニを置きたくないのはジェシンだって一緒だった。
ユニは新作を書き、ジェシンもそのサポートをする日々。恋人と仕事上のパートナーとの関係が密度を増してきたころ、ジェシンには新たな担当が増えた。
くだんのミステリー作家だった。
元からの担当編集者と二人で担当するのだ。『ユニイ』とは違う形で、というより最初から映画化やドラマ化されたりし続けている作家なのだが、全くの個人でやっているので、全てのマネジメントを編集担当がしてきている。シリーズ化されている小説もいくつかあり、一人では回らなく、他の者が手伝ってはいたのだが、とうとう専属でもう一人担当させた方がいいという話は進んでいた。そこでジェシンに編集長から指名がいったのだ。
「え・・・じゃあ先輩は私の編集さんじゃなくなるの?」
そう怯えた顔をするユニに、いいや、とジェシンは力強く首を横に振った。
「お前が手のかからない作家だからこそ俺に声がかかっただけだ。普通一人の編集者は何人かの作家先生を担当するもんだ。俺は『ユニイ』と別部門で『ハヌル』の二人だし、どちらも手がかからねえから、もう一人担当して視野を広げろってことだろうな。」
ほっと胸をなでおろすユニを抱き寄せて、ジェシンは顔を覗き込んだ。
「俺は担当作家が一人増えたって言っただけだぞ。どうして俺がお前の担当を外れるって話になる。」
「だって・・・。」
ユニはうつむいてぼそぼそと答えた。
「その作家さんのお仕事をするときは、先輩に会えない時でしょ?」
今まで独り占めだったから、とユニはぽつん、と付け足した。
そうだな、とジェシンはユニを抱きなおした。膝の上に載せて、確かにな、と相槌を打つ。
「あちらにかかる日が増えるのは確かだ。事務仕事も代行しているようだし・・・。今までの様にはいかないか。」
ジェシンは平日はどこかでユニに連絡を取るし、仕事上のことで部屋にも来る。それに休日にはほとんどユニのところで過ごしている。
「じゃあ、こういうのはどうだろう・・・俺が、毎日お前のところに帰ってくる・・・そうすれば毎日会えるな。」