極秘でおねがいします その92 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「『ユニイ先生』には敵わねえ・・・。新作を出したときには次の作品のプロットが出来上がってるなんて、俺の同僚が聴いたら泣いて悔しがるぜ・・・。」

 

 車を運転しながらジェシンが言うと、ユニはくすぐったそうに笑った。

 

 

 11月にかつての国の儒学校『成均館』を舞台にした群集劇を新作として発表したユニだったが、まだ二か月にもならない今は、次の作品に取り掛かっている。もう少し新作の大ヒットの余韻に浸ってもいいんじゃないかな、とジェシンが思うぐらいに。

 

 今度は現代が舞台。それも本当に今、問題視されている高齢化社会の問題を軸にしたミステリーと言えばいいか。これに関してはボランティアNPОの代表チョソンと出会い、現代の華やかな表側とは違う韓国の実情を見たことから創作に至ったのだろう。殺人事件は起こらないが、赤ん坊の取り違えならぬ老母の取り違えに端を発する、母を探しまわる娘と協力するボランティア団体の女性の話だ。

 

 『憎い憎い憎い・・・呪詛のように胸の中には憎しみが連なって渦巻いているんです。あたしを捨てたくせに。あたしが必死に働いたお金で酒を浴びるように飲んで、フラリと男のところに行って、男に捨てられたら帰ってくる。だからあたしが捨ててやったの。あたしはどこに行ったって仕事ができたわ。看護師だもの。うんと遠くに行ってやった。家の鍵を閉めて、自分に必要なものだけもって、あの家から出ただけ。あんな厚かましい女、誰にでも集って生きてると思うじゃん。叔母さんのくせにいつまでも男が切れないんだから、男の家に転がり込んでるって思うじゃん。せいせいしたよ。自分で稼いだお金を自分の生活のためだけに使える。生まれて初めての贅沢だと思った。あいつのせいで、あたしの母親のせいで、あたしはいつだって不幸だったんだ、って恨んで恨んで、ざまあみろなんて思って・・・忘れてたんだ・・・あたしの15年は母親の年齢の15年とは違うって・・・そりゃまだうちの母親は若い方だと思うよ、でもさ、認知症になるのに、年齢は関係ないから。ご飯も食べずに酒を飲んで、たばこ吸って、不規則な生活。体が悪くなることしかしてない人だった。そんな思い出しかないと思ってたの!そう叫んだユジンは顔を覆った。ヨナはそれを見ているしかできなかった。あの扉の向こうで、口をぽっかりと空けて横たわる老婆がユジンの母親だとようやくわかったのに、後退さって、表情をゆがめた彼女。

 

 「見つからない方が良かった?」

 

 静かな声で聴いてみれば、どうかな、とユジンは顔を上げた。どうしたらいいかわからない、そう言いたげな表情は、この間まで母親の安否を気遣い必死だったユジンと同一人物とは思えなかった。

 

 「どうかな・・・でもね、あたし、オンマの夢を時々見てたの・・・時々ね、年に一回か二回・・・少ないでしょ。そんなもんなのよ・・・薄情なものよね・・・でもね、夢の中のオンマは、若くて、優しくて、たくさんご飯を作りすぎて余らせて・・・あたしと死んだハルモニと三人で暮らしてた時のオンマなの・・・あたしの、本当のオンマ・・・。」

 

 そう言って、ユジンは号泣した。』

 

 

 これはほぼ最後に当たる箇所の文章で、この後物語はエビローグで締められる。ほんの一部分だが、ユニは今回この箇所が先にできてしまったらしく、そこも作家の謎だなあ、とジェシンは感心するしかなかった。

 

 「今はもう一段細かく章立てしている最中なので、一か月ぐらいしたら本格的に書きます。時々ウサギちゃんのお話に逃避してるから、何冊分もお話が出来ちゃいそう、」

 

 「『ハヌル先生』の方も順調だってことか・・・。編集長が喜ぶぜ。」

 

 そんな話をしながら、車を歩道に寄せる。ここからユニは歩いて実家に向かうのだ。全く関係ない話をしながら気をそらしていたのも、これから久しぶりに会う家族とのことから少し目をそらしたかっただけなのだ。

 

 「呼んだらすぐ迎えに来る・・・ほら、お迎えも来てるぜ。」

 

 顎をしゃくった先にはユンシクの姿。車を見つけて走り寄ってくる。マフラーが道端に飛んだ。

 

 「まああの子、マフラーしていないと風邪ひいちゃうのに・・・。」

 

 慌てて降りようとするユニの背中を見て、大丈夫だ、とジェシンは確信していた。

 

 

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